千葉ロッテマリーンズはファンサービスに熱心な球団だと言われます。
球場外に立ち並ぶ屋台、特設ステージで連日行われるイベント、360度ビアスタジアム。球団が行った画期的とも言えるファンサービスはスポーツビジネスにおける成功例としてメディアの大きな注目を集めました。
事実、マリンスタジアムは数年前とは比べ物にならないほどの賑わいを見せています。
ジャスコが最近マリーンズ応援ありがとうセールを始めました。
近所の不動産屋に行けば、千葉ロッテマリーンズを応援するのぼりがはためいています。
街を歩けばマリーンズの帽子をかぶった少年を多く見かけるようになりました。
マリーンズは、ホームタウンである千葉に、確実に根付き始めています。

まさに、ロッテ球団の地道な集客策と営業努力の賜物です。

しかし、今年になって球団が誰に対してファンサービスを行っているのか、どこを向いているのかわからなくなることが増えてきました。アットホームな雰囲気が無くなった、球団の顔が見えなくなったという嘆きがファンの間から聞こえてきます。あの手この手のイベントで新規ファンの獲得に意欲を燃やすのはわかるのですが、その一方で既存ファンが置き去りにされているように見受けられます。球団のやり方に対しなんとなく疎外感を感じた方も多かったのではないでしょうか。

一言で言えば、「ゼニの臭い」が強すぎるんですよ。球団のやっていることは。
少しでも幅広い層からゼニを集めたい。しかし銭にならないことはやりたくない。そんな姿勢をひしひしと感じるのです。
純粋なビジネスとして考えるなら確かに理に適っています。しかしスポーツビジネスはファンの夢と感情という厄介なものを相手にしています。決して理詰めでは行かない世界です。そのあたりのさじ加減が、特に今年はうまく行っていないような気がします。

思えば今年は最初からおかしなことが続きました。

球団からの年賀状が1月1日ではなく1月2日に届き、
球団マスコットの中の人を公式サイトで募集し、
ロッテ26スタジアムへの改称という話が浮上し、
ファンクラブの手続きが大きく遅れる。
その他にも、様々な掲示板やブログを見ていると入場整理の手際の悪さ、球団職員の接客態度についての非難があちこちで見受けられます。

浮かび上がってくるのは球団による感動の押し付け。そして球場でファンと接する第一線の職員に対する教育を怠るという現実からは、「もうすでにファンになってしまった人たち」の軽視。ファンの心情を理解しているのなら、マーくんの中の人を大々的に募集するといった愚挙には絶対に出ないはずです。

Mスプラッシュの大増殖も解せません。ファンのためじゃないでしょうね。AKB48の記事から察するにお金を稼ぎたいのでしょう。Mスプラッシュは確かに球場を華やいだ雰囲気にしますが、決して歓迎一色ではなく、観戦の邪魔になると捉えているファンも少なからず存在します。特に女性ファンからの受けはかなり悪いようですね。一部のネット上で来シーズンよりスタンドの売り子を全廃しMスプラッシュがビールなどを販売するという噂が流れていますが、もし現実のものとなれば女性ファンから総スカンを食うかもしれません。

ファンサービス自体も決して向上ばかりではありません。前売り制度導入の影で当日券の大幅値上げが敢行されました。最終戦で毎年行われていた、全選手のメッセージが書かれている紙の配布もありません。そしてファンクラブ会員に配布するピンバッチもデザインが大幅に簡素化され、しかも全種類のピンバッチが事前に公開されてしまいました。

個人的には、このピンバッチがファンサービスの低下の象徴だと思っています。

まず、昨年まで配布されていたピンバッチをご覧ください。

今までのピンバッチ

当時は誰のピンバッチが配布されているのかは袋を開けないと分かりません。まず袋を開ける楽しみというのがありました。そして各選手ごとに趣向が凝らされたデザインとなっています。それに左下の黒木をご覧いただければお分かりの通り、同じ選手でも年によってデザインが違います。これならダブる心配も無く毎年ピンバッチ集めを楽しむことができます。しかも、左の於保のピンバッチのように、メジャーな選手ばかりではなくマイナーな選手のピンバッチも毎年作成されていました。マニアックなファンも満足させれられるほか、たとえ顔を知らない選手のピンバッチを引き当てたとしても、これをきっかけとしてその選手に興味を持つ、何てことも起こりえます。ピンバッチはディープなマリーンズ人への入口でもあったのです。

そして今年です。

今年のピンバッチ

デザインがメジャー調のものに統一されて面白みがなくなりました。しかも全部のデザインが事前公開されたあげく、いつ誰のピンバッチが配布されるか事前にアナウンスされたため、コレクターとしての楽しみがかなり奪われることとなりました。またビジター応援デーで配布されたバッチの数が足りず、ファンからの苦情が噴出するという事件もありました。

二つの写真を比べれば一目瞭然。金にならないことには力をかけたくないという姿勢が分かります。確かに無料のものですし、デザインに懲りすぎるのは確かに費用対効果で考えれば無駄といえるでしょう。しかし、ピンバッチに対するファンの思い入れはいったいどうなるのかと思います。ピンバッチを楽しみにしていたファンにとってはがっかりでしょう。

ファン層拡大は結構。しかし、増やしたファンをつなぎとめる努力をきちんとしているのでしょうか。
球場に足を運ぶきっかけは様々でも、最終的にはロッテの野球を好きになってもらわなければいけないのではありませんか?
イベントはあくまでもとっかかりです。野球場の本分は野球を見せることであり、イベントは副次的なものに過ぎません。
イベントはやがて飽きられます。イベントに飽きた客は野球に興味が無ければやがて来なくなります。色の濃すぎるイベントは野球観戦の邪魔となりかねません。

バレンタイン監督はこう言います。

「優勝するチームでも4割の試合は負けている。もし野球だけに集中していたら、お客様は10回のうち4回は悲しむじゃないか」

確かにその通りでしょう。ですが、20対0で負けた試合でも、悔しがることなく楽しかったと言って帰る客をマリーンズファンと呼べるのでしょうか。
勝ち負けよりも楽しむことを優先するファンが増えたら、球場一体となってマリーンズを応援する雰囲気が壊れてしまうかもしれません。
ロッテが負けたからイベントで楽しむ、ではなく、ロッテが負けたらよりいっそうファン魂を燃やす。
これからはそんなファンを増やしていくことが大事です。

つまり、増やすべきは「マリサポ」ではなく、チームと苦楽を共にできる「マリーンズ人」なのです。

例えば私の友人の彼女は、友人に連れられて今年初めてマリンスタジアムに行きました。
彼女はライトな巨人ファンで、ロッテのことはほとんどわからなかったそうです。
それが今では新聞や雑誌の記事に「帳尻」という文字を見つけただけでニヤニヤしてしまうという、立派な「マリーンズ人」となりました。
まさに友人の教育の賜物ですね。私も見習いたいものです。

「帳尻」に心躍らすマリーンズ人なら、例えスタメンに1割バッターが3人いようが、ちょっと10連敗しようが、ちょっと借金二桁こさえようがチームを見捨てるようなことはしません。このようなどんな逆境にあってもチームを見捨てずに応援し続けたマリーンズ人に、昨年以降新しいファンが大量に加わりました。新旧のファンの間に軋轢が生じてしまうのはある程度やむを得ないでしょう。マリンで野球を見る、ということに対する考え方が根本的に違うのですから。

新規ファンをマリーンズ人として覚醒させる方法。これがよくわからないんです。まあ球団でファンサービスを担当する頭の良い人たちにもわからないのですから、そう簡単に答えが出るはずもありません。
ただ、大前提として、マリーンズのダメな部分も含めたマリーンズそのものを、マリーンズの野球を好きになってもらう必要があると思います。
そのためにはまず、ファンのチームに対する親近感、一体感を高めていくことが必要でしょう。

例えば去年は。ヒーローインタビューのあと、選手がライトスタンドまで来て、マイク片手に自分の言葉でファンに語りかけてくれました。今年それが無くなってしまったのは非常にもったいないと思います。選手の言葉は短くても、ファンと選手の一体感を高める効果は確かにありました。初めて来た人にとっても、そんな場面に居合わせれば、このチームは凄い。また来ようと思ってくれるのではないでしょうか。

サッカーの例で恐縮ですが、先日私は柏レイソル対東京ベルディー1969の試合を見に行きました。めでたくレイソルが勝ち、選手による場内一周とヒーローインタビューの終了後、その日のヒーローでもなんでもない岡山選手がマイクを持ってマイクを持ってピッチ出てきたのです。選手数人を引き連れて。

「みなさーん!こんにちはー!」

岡山選手はスタジアムのファンに呼びかけました。そして残り試合がもう少ないこと、J2昇格に向け負けられない試合が続くこと、そのためにはサポーターの応援がよりいっそう必要なのでぜひスタジアムに来て欲しいということを、サポーターに語り掛けていました。
そして最後はサポーター同士肩を組ませ、「J1帰ろう J1帰ろう J1帰ろう みんなで帰ろう♪」と大合唱。
盛り上がってましたね。サポーターと選手たちが力をあわせ、一緒になってJ1復帰を勝ち取ろうという雰囲気を感じました。

こういうノリはマリーンズも見習いたいと思います。

球団には、新規ファンの開拓ばかりに目を向けず、野球を楽しめるファンを増やす努力、そしてファンになってくれた人をつなぎとめる努力もっとしてほしい。ただでさえ小坂のトレード以来フロントへの不信感が高まっているのです。下手をすれば古参のファンに愛想をつかされ、新規ファンに飽きられ、「そして誰もいなくなった」という最悪の事態にもなりかねません。

千葉ロッテマリーンズの本分はあくまでも野球。
プロ野球チームとしてのアイデンティティーを、もう一度見直すべき時に来ているのではないかと思います。

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