イギリス紀行2006 〜英国紳士への道〜 第1回
1.成田からヒースロー空港へ
 


1日目 2006年2月22日 (水)
出発の日。意気揚々と成田からロンドン・ヒースロー空港へ。およそ13時間の空の旅です。



1.成田からヒースロー空港へ


 「本場ヨーロッパのサッカーってどんな感じなんだろうな」

 イギリス旅行のきっかけはふと友人に漏らした一言だった。「じゃあ見に行こうか」という話になり、まずはサッカーの試合が行われている国の試合日程を調べることにした。イタリア、スペイン、イギリス、フランス、ドイツ・・・。トリノオリンピックが開催されるイタリアは混みそうだ。それに2月のオフシーズンに大都市で試合が行われており、有名選手がおり、観光も出来て、なおかつ安い都市、となると条件は限られてくる。結局飛行機の乗り継ぎは避けることにして、直行便で行けるロンドンに決まった。観戦するのはイングランドのプレミアリーグ、チェルシー対ポーツマスである。人気チーム同士が対戦するカードはチケット入手が困難だが、チェルシーはともかくポーツマスはあまり人気が無い。これなら何とかなるかもしれないということで日本国内ののチケット購入代行屋に申し込んだ。すると幸先良く申し込みの翌日にチケットの入手に成功。手数料込みで2万円も取られたが、もともとバックスタンド下段の定価が48ポンド、日本円で約1万円もするのだ。つまり定価の倍の値段で買えたことになる。チケットはファンクラブ会員優先で売られるため現地で買える保証はないし、ダフ屋から買うのはリスクが高い。定価プラス1万円は安心料と考えればやむを得ない出費だろう。

 そのかわりツアーは出来るだけ安いものを探した。申し込んだのはロンドン往復4泊6日、往復の飛行機とホテルだけが決まっているフリープランである。往復はヴァージンアトランティック航空の直行便。値段は何と9万円弱だ。オイルチャージを含めても10万で済む。その代わり現地の案内も空港からホテルまでの送迎もない。ホテルの場所はインターネットで調べられるし、どうやら地下鉄の駅の目の前らしい。降りる駅さえ間違わなければ迷うことはないだろう。私自身は初海外で、その上絵英語はさっぱりだが、幸い同行する友人はすでにイタリア、スペイン、フランスに旅行済で旅慣れている。したがって自分より英語が話せるだろう。それになんと言っても英語は曲りなりにも学校で習っている。まったく理解できないわけではないのだ。単語さえ分かればなんとかなるだろう。友人とガイドブックやインターネットを見ながら行きたい場所をあれやこれや物色するうちに時間がたち、やがてイギリスに出発する日がやってきた。

  2月22日朝。いつもは仕事場へと向かう道を、今日はスーツケースを引きずりながらゆっくり歩いていく。目指すのは会社ではなくイギリスだ。初めての海外旅行、本場イギリスでのサッカー観戦。心が躍る。成田空港までは自宅から1時間弱。京成の特急に乗れば後は座っていくだけだ。都心のターミナル駅をスーツーケース持って右往左往しなくて良いのは千葉県民の特権だろう。特急の車内で友人と落ち合い、二人座って空港を目指す。ボーっと景色を眺めていると眠くなってくる。昨晩私は興奮して眠れなかったが、友人は深夜までスカパーの海外サッカー中継を見ていたそうだ。「予習だよ」と友人が笑う。気分が高揚していたのは友人も同じなのだろう。

 朝10時。我々が乗った京成特急は成田空港駅のホームに無事到着した。我々が搭乗するのはヴァージンアトランティック航空VS-901便。ロンドンンへの直行便だ。フライトは12時。まず旅行会社のカウンターで搭乗手続きを済ませた。どうもイギリスに向かうのは我々だけらしい。団体旅行ではなくフリーツアーなので特に支障は無いが、少々意外な気もする。というのは、この旅行会社以外にもロンドン行のフリーツアーを申し込んでいたが、どれも飛行機が満席だからと断られていたのだ。イギリス行きの飛行機は確かに満席だが、イギリスへの旅行客は少ないのかもしれない。我々は出国カウンターを後にし、空港内の喫茶店でサンドイッチをほおばりながら搭乗開始を待った。

 11時半過ぎ。搭乗開始を知らせるアナウンスがあった。飛行機に乗り込むとほぼ満席。外人の客室乗務員がいる。英語の機内放送が早口でまったく聞き取れない。外国に行くのだという実感がわいてきた。自分のリュックを座席上部の棚に入れようとしたら棚が小さすぎて入らない。仕方ないので足元にリュックを押し込む。そうこうするうちに定刻の12時。いよいよロンドンに向け離陸した。これから13時間あまりの空の旅である。

 飛行機は徐々に高度を上げていく。九十九里浜の上空から一旦太平洋に出て、旋回しながら北に進路を向け、佐原の近辺で利根川を越える。眼下にはゴルフ場と田んぼ。地上の光景がはっきりと見える。やがて日本海に出て、シベリア上空に差し掛かったあたりで窓を閉めるように指示された。機内が真っ暗になる。機内食はおいしいが、座りっぱなしなので消化が進まない。初めのうちはガイドブックやらサッカー雑誌を読んでいたが次第に飽きてきた。暇でしょうがない。ヴァージンアトランティック便の座席には背もたれの後ろに小さな液晶画面がはめ込まれており、映画やゲームが楽しめるようになっている。することがないので、映画でも見ることにした。まずは『電車男』。ロケ地が北総線だ。地元の路線なのですぐにわかった。これで2時間。次に『ウエディングクラッシャー』というアメリカ映画を見た。なんとなくチャンネルを合わせただけだったのだが、いかにもアメリカらしいさわやかな下ネタが眠い頭にヒットした。ストーリーは簡単で、他人の結婚式に勝手に参加して飲み食いしたあげくその場の女の子をナンパしまくっていた男が本当の恋に落ちて・・・。というものだ。これで2時間。次に『がんばれベアーズ』を見る。メジャー経験のある監督率いる少年野球チームが野球を通じて成長したりしなかったり、という内容だった。これで2時間。まだシベリア上空だ。眠い。しかし眠れない。しかしここで眠らないと後々大変なことになる。長旅の上、時差が九時間もあるからだ。目だけ閉じているうちに数時間たち、やがて朝食が出てきた。朝、という気は全然しないのだが、なぜか腹が減っているので機内食のパスタを流し込む。そして食べ終わってから約1時間後。飛行機は徐々に高度を下げ厚い雲を抜けた。眼下に広がる茶色い町並み。ロンドンだ。これが海外なのか。確かに日本とは違う。眼下の景色を眺めるうちに嬉しさがこみ上げてきた。そして我々を載せたヴァージンアトランティック901便は現地時間の午後3時過ぎ、約13時間の長旅を終え無事ヒースロー空港に着陸した。

 長い長い通路を歩き、入国審査待ちの列に並ぶ、成田発の便の到着後とあって日本人ばかりだ。待つこと10数分、いよいよ我々の順番だ。もう日本語は通じない。ここは英語の世界である。二人してカウンターの前に立つと、早速女性職員がやる気なさそうに質問を始めた。

「何日間滞在しますか?」
「6日間!」
「目的は?」
「観光」
「滞在するホテルの名前は?」
「ノボテル ロンドン ウエスト」
「それはどこにありますか?」
「ハンマースミス」

 これで終わりである。もっと早口の英語で色々と聞かれるのかと思ったが、意外なほどあっさりしていた。
「ハンマースミスってちゃんと通じたよ。"ス"の発音に気をつけたからな」
と、うれしそうな友人。
「おうおう、THだなTH」
と私。ちなみに私がしゃべったのは「シックスデイズ!」の一言だけである。

 ともあれこれでイギリス入国の第一関門は無事突破した。次の目的地はロンドン市内のハンマースミスというところにあるホテルだ。色々行きたいところはあるのだが、まずは荷物を部屋に預けるのが先だろう。今回の旅行は安いフリーツアーなので旅行会社による出迎えはなく、空港から自力でホテルに行かなければならない。  ヒースローからロンドン市内に行く場合、地下鉄ピカデリーラインに乗ってロンドン中心部に向かうか、特急ヒースローエクスプレスに乗って市内北部のパディントン駅に向かうという二つの方法がある。ヒースローエクスプレスはパディントン駅まで15分と速いのだが、運賃が14.5ポンド、約3,000円もかかるというぼったくり特急だ。一方の地下鉄は市内中心部まで40分かかるが、運賃は4ポンドと安く、本数も多い。しかも今回われわれが泊まるホテルのあるハンマースミスはピカデリーラインの駅なので、地下鉄に乗ってそのまま行くことができる。なので我々は乗り換え無しで行ける地下鉄の乗り場を目指し、スーツケースを引きずりながら歩き出した。案内板の指示に従い、狭くて薄暗い地下通路を進んでいく。どうも工事中らしい。行き交う人々がみな外人ばかりだ。海外だから当り前で、ここではわれわれのほうが外人なのである。自分が知らなかった世界というのは新鮮だ。

成田空港
成田空港にて


ヒースロー空港通路
ヒースロー空港。入国ロビーへの通路。

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