イギリス紀行2006 〜英国紳士への道〜 第10回
朝のパディントン駅
 

パディントン駅

3日目 2006年2月24日 (金)
今日はバースとオックスフォードを巡ります。まずは出発地となるパディントン駅へ。



10. 朝のパディントン駅

「珍しく時間通りに汽車が来たと思ったら、ちょうど24時間遅れていた」

 イギリスの鉄道についてのジョークである。24時間は大げさにしても、イギリスの鉄道がしょっちゅう遅れるという話はよく聞く。10分20分の遅れは当たり前で、突然の運休や間引き運転、トラブルによるルート変更も珍しくないそうだ。それも事故や車両故障ならともかく、「運転手が足りない」などというしょうもない理由で運休するらしい。日本とは大違いだ。日本なら時刻通りの運転が当たり前で、新幹線が10分遅れるだけでニュースになってしまう。イギリスは鉄道発祥の地であるにもかかわらず、こんな体たらくでいいのだろうかと思う。実は昨日ソールズベリ行きを諦めたのは鉄道が余り信用できないから、という理由もあった。遅れるだけならともかく、目的地にたどり着けないなんてオチは勘弁願いたい。

  2月24日早朝。朝6時過ぎに起床し、朝食を食べずにホテルを出た。天気は曇り。ホテルではパンしか出ないのだから駅で朝食を買い、列車の中で食べれば良いだろう。今日は午前中にローマ時代の温泉の遺跡で知られ、英語のBathの語源にもなった街バースを観光し、午後は大学で有名な町オックスフォードを観光する予定である。せっかくの観光をくだらないトラブルで無駄にしたくないので、列車が大きく遅れないことを祈るばかりだ。

 バースに向かう列車が出発するのはロンドン中心部の北側にあるパディントンという駅だ。朝8時ちょうどに出発する列車に乗る予定だが、まだ切符は買っていない。ハンマースミスからパディントン駅へは地下鉄のハマスミスアンドシティラインで約20分。しかも始発駅なので座って行くことができる。ハマスミスアンドシティラインの駅はピカデリーラインの駅から少し離れており、駅前の信号を渡った先にあった。近代的なピカデリーラインの駅とは異なり、レンガ造りの古くてせせこましい駅舎だ。切符売り場で一日券を買い、狭い通路を抜け改札を通った。改札の先には行き止まり式のホームがあり、すでに電車が止まっていた。平日の朝にも関わらず人気が無く、車内もガラガラだ。中心部に向かわないせいだろうか。ただ本数は多いようで、電車は我々が乗り込んだらすぐに発車した。地下鉄といってもこのあたりは郊外だから地下にはもぐらない。住宅地の中の高架線をこまめに駅に止まりながらゆっくり走っていく。やがて電車は緩やかなカーブを曲がり、何本もの線路と合流した。ターミナル駅が近づいてきたのだ。いよいよイギリスの鉄道に乗れるのだとワクワクする。

 電車は朝7時過ぎにパディントン駅に着いた。イギリス南西部に向かう路線が集まるターミナル駅である。地下鉄のホームは巨大なパディントン駅の端にあり、ホームからいったん階段を上がって改札を出る。そのまま跨線橋を歩くと旧国鉄線のホームに降りる階段につながっていた。。行き止まりの駅のちょうど先端に降り立つ感じだ。ホームに改札がないので鉄道の切符を買わなくても列車に乗れてしまうのだが、切符は車内で買えるのだろうか。車内でトラブルになるのも困るので、まずは切符売り場を目指してホームの奥に向かって歩いた。まず駅の発車案内板を見つけて、これから乗る列車が何番線から何時に出発するかもチェックしなければならない。日本のように○○方面が何番線と決まっていないのだ。

 長いホームを歩きホームの終端部についた。コンコースには売店やコーヒーショップが並んでいる。早朝にもかかわらず行きかう人が多い。大きなスーツケースを抱えた旅行者からビジネスマンまで様々である。パディントン駅は空港直通特急であるヒースローエクスプレスの出発駅なのだ。くすんだ色の列車に混じって真新しい銀色のヒースローエキスプレスの列車が発車を待っており、そこだけ華やいだ雰囲気をかもし出していた。

 我々の乗る列車は8時発なのであと30分ほど余裕がある。旅行客に混じって巨大な発車案内板を見上げてみたところ、それらしき列車を見つけた。行き先がBristol temple Meadsとなっている。停車駅の一覧にBath Spaと書いてあるので間違いなさそうだ。少なくとも運休はないだろう。しかし目当ての列車の発車時刻は出ていても発車番線が書いていない。どのホームから出発するか分からないので、しばらくたってから再度案内板を確認する必要があるだろう。イギリスの鉄道はいい加減だと改めて思う。

 乗り場は分からなくともまずは切符を買わなければ始まらない。切符売り場は駅の奥にあった。分かりやすい場所にあってすぐに見つけられたのだが、あいにく窓口の売り場には長蛇の列が出来ている。売り場の端にクレジットカードで購入できる自動券売機が置いてあり、こちらは誰も並んでいない。券売機の前に立ちタッチパネル式の画面を適当にいじるとバーススパまでの切符の値段が出てきた。片道56ポンド。
「ちょっと待て。何で56ポンドなんだ?」
友人が怪訝そうな顔をしている。
「昨日ロンドンからソールズベリ、バース、オックスフォードを回って65ポンドって聞いたよな。なんでロンドンからバースまでの値段と10ポンドしか違わないんだよ。おかしいだろう」
確かにその通りだ。理由がわからない。わからなければ窓口で聞いてみようかと長い行列に並んでみた。発車まであと30分以上あるからまだ大丈夫だろう。10分ほど並んでようやく我々の順番となる。窓口は小太りのおっさんだった。

「パディントン駅からバーススパまでの片道切符をください」
「バーススパね。56ポンドです」
「56ポンドですか。実は昨日ビクトリア駅で聞いたところ、ロンドンから、ソールズベリ、バーススパ、オックスフォードを回ってロンドンに戻ると65ポンドだそうなんです。どうしてバーススパまでの切符が56ポンドもするんですか?」
「そういうことはここじゃ分からないからインフォメーションセンターに行って聞いてくれます?」
「いやだから高いんじゃないかと・・・」
「インフォーメーションセンターにどうぞ!(その方向を指差しながら)」

こちらの質問をさえぎるように答えるばかりか、ご丁寧に両手を横に広げる「私分かりません」のゼスチャーつきだ。これでは埒が明かない。出発まではあと20分。朝食も買わなければいけないし、あまり粘っても仕方ないだろう。やむなくクレジットカード式の自動券売機でバーススパまでの切符を買った。56ポンドは日本円にして約11700円。ロンドンのパディントン駅から距離にして約171キロある。日本で言えば新宿から小淵沢まで特急あずさに乗るようなものだ。新宿〜小淵沢間は乗車券と特急券込みで5,550円。日本に比べイギリスの鉄道はだいぶ高い。イギリスには特急、急行などの種別が無く、速い列車も各駅停車も同じ料金となっている。しかし遠くまで乗る場合は運賃の計算の際に日本で言うところの特急料金が上乗せされるのかもしれない。

ハマスミス&シティライン
ハンマースミス駅にて発車を待つハマスミス&シティラインの電車


切符売り場へと長いホームを歩く
切符売り場に向かうべく長いホームを歩く


パディントン駅
パディントン駅で発車を待つ列車


ファーストクラスの車両
ファーストクラスの車両。我々が乗るのはセカンドクラス。


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