イギリス紀行2006 〜英国紳士への道〜 第11回
パディントン発8時の列車でバースへ
 

車窓

3日目 2006年2月24日 (金)
イギリスの鉄道に初乗車。バースまで1時間半の旅です。


11. パディントン発8時の列車でバースへ

 疑問は解決しなかったが、とにかく切符は買った。あとは朝食を買って列車に乗るだけだ。売店でパンを買おうとすると、「ブラウン オア ホワイト?」と聞かれて焦る。どうやらパンの色のことらしい。日本ではあまり無い黒パンを選んで3ポンド払った。日本円で約600円。パンを片手にコンコースの巨大な電光掲示板を見上げると、ようやく目当ての列車の発車番線が5番線と表示されていた。幸いなことに遅れはなさそうだ。発車時刻まであと10分。改札口が無いのでそのまま5番線ホームに行き、空席を探しながら列車の先頭に向かって歩いた。イギリスの列車には1等車と2等車があり、我々が乗るのは2等車だ。平日の朝の車内はビジネス客と観光客が半々で、空いている席があまり無い。誰も座っていない席もあるにはあるが、背もたれの上にカードが刺さっている。これは指定席の印だ。イギリスの鉄道は自由席と指定席が車両ごとに分かれておらず、指定席券を購入した人数分の座席に予約済のカードを刺すシステムになっている。予約された区間以外は勝手に座っても良いらしいのだが、後でトラブルになりそうだ。かなり前の方まで歩き、ようやく二人分の空席を見つけた。落ち着いて車内を見回す。日本の特急と変わらない進行方向に二人掛けのシートが並んでおり、場所によっては向かい合わせの座席もある。そこは日本と違って座席の間に幅30cmほどのテーブルが挟まっている。車両の両端の窓には行き先と途中停車駅を書いた紙が貼ってあった。見ると行先はBristol Temple Meads、停車駅はReading、Swindon、Chippenham、Bath Spaの4駅と書いてある。時刻表を見る限りでは通過する駅が多く、日本で言えば特急列車のような感じだろう。

 座席に腰を落ち着けるとデッキの外でバタン、バタンと大きな音がする。駅員が列車のドアを閉めて周っているのだ。自動ドアではなく、外開きの手動ドアである。そして定刻の朝8時、発車ベルが鳴ることもなく列車は静かに動き出した。パディントン駅を発車した列車は徐々に速度を上げ、ロンドン郊外の駅を次々と通過する。複々線となっており、となりの線路を走る通勤列車と何本もすれちがう。景色を眺めつつ駅で買ったパンをかじっていると車掌が検察にやってきた。自動券売機で買った切符の印刷がかなりかすれていたので、クレジットカードで買った場合に発券される予備のバウチャーも一緒に見せた。ここは何事もなくクリア。「サンキュー」と切符を返してもらった。

 ロンドンから約30分。列車はレディングというロンドン近郊のターミナル駅に停車した。意外と降りる人が多い。ここからバーミンガム方面の列車に乗り換えることが出来る。となりのホームにはバーミンガム行きの列車が発車を待っている。車両の側面に「Virgin」と書いてあるので、ヴァージントレインズの運行だろう。ヴァージンアトランティック航空にヴァージンメガストア、ずいぶんと手広い会社だ。
レディングを発車するとやや景色がひなびてきた。しばらくするとオックスフォード方面の乗換駅ディドコットパークウェイ駅を通過した。それほど大きな駅ではなく、田舎の駅といった風情だ。しかし駅を出ると線路の横に大きな発電所が建っている。原子力発電所だろうか。白い煙をもうもうと上げていたが、寒いから湯気かもしれない。

 車窓はさらにひなびてきた。一面に広がる畑や牧草地の中を時速200キロ近いスピードでに飛ばしていく。イギリスの田舎らしい、とてもきれいな風景だ。それにしても天気が怪しい。陽が射していたかと思うととたんに雲が垂れ込めてくる。牧場の小道には水溜りが見える。ところどころ雪も残っている。しまいには雨や雪がぱらついてきた。今日は晴れの予報だったのに、イギリスの天気は当てにならない。

 田園の中を列車は快調に飛ばしていく。駅と駅の間はかなり広く、15分ほど走ってようやく街がみえてくると駅に着く、といった感じだ。スウィンドン、チッペナムと停車したが、通過した駅は無かった。時刻表を見るスウィンドンからバーススパまで各駅停車だ。田舎だから駅を設置できるような街が無いのか、あるいは特急用に別々の路線をつなげたから駅が無いのか。この辺は調べてみないと分からない。コッツウォルズ地方への玄関口であるチッペナム駅をほぼ定刻に発車した列車は速度を上げ、無人の牧草地帯を走り出した。窓の外では相変わらず雨や雪が降ったり止んだりを繰り返している。午前中はずっとこんな感じなのだろうか。やがてバーススパ駅の到着時刻である9:25を回ったが、窓の外には畑や林が広がるばかりで街の気配がない。やや心配になりかけた頃、突然車窓の視界が開けた。川の向こうに教会の尖塔を中心に広がる石造りのしっとりとした町並みが見える。バースの街に違いない。列車は速度を落とし、定刻より約5分遅れてバーススパ駅に到着した。

 ドアの前で開くのを待ったが開く気配はない。パディントン駅を出発するときに駅員が手でドアを閉めていたのを思い出す。降りるときは客が手動で開けるようだ。ところがドアのどこを探しても取っ手やボタンがない。いったいどうやって開けるのだろう。まごついていると後ろのイギリス人がおもむろにドアの窓を開け、車両の外に腕をつきだした。なんとドアの窓の外に手を出して、車両の外側についているレバーを回して外からドアを開ける仕組みになっていたのだ。そのためにドアの窓が開けられるようになっていたのだが、なぜ車内から開けられるようにしないのだろうか。あまり合理的ではないような気がする。釈然としないまま我々はホームに降りて駅員に切符を渡し、駅舎に向かう地下通路の階段を下りた。

レディング駅で発車を待つヴァージンの列車
レディング駅で発車を待つヴァージンの列車

車窓
沿線の車窓


車窓2
沿線の車窓


スウィンドン駅1
スウィンドン駅


スウィンドン駅2
スウィンドン駅


ドアを手で開ける列車
バーススパ駅に到着


バーススパ駅
バーススパ駅の駅舎

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