イギリス紀行2006 〜英国紳士への道〜 第12回
バース観光その1 ローマンバス
 

ローマンバス外観

3日目 2006年2月24日 (金)
バースと言えばローマンバス。ローマ時代の温泉の遺跡です。



12. バース観光その1 ローマンバス

 イングランド西部の街バースは国内有数の観光地として知られる。18世紀ごろより上流階級の保養地として栄え、今もジョージ王朝時代の面影を色濃く残している。蜂蜜色で統一された石造りの街並みはユネスコの世界遺産に指定されており、そのしっとりとした美しさは折り紙つきである。それに何と言ってもバースは温泉の街だ。街の中心部には約2000年前にローマ人によって建設された、ローマンバスと呼ばれる大浴場の遺跡がある。一説によればこの遺跡がbathの語源になったと言う。バースでは現在でも一日100万リットルもの温泉が湧き出しているが、温泉宿があるわけでもなく、日本で言う温泉街でもない。むしろ古い街並みを残す街、そして大学の街と言ったほうが良いのかもしれない。

 今日は午前中にバースの街を観光し、昼食を取って列車で移動し午後からオックスフォードの街を観光する予定だ。国内有数の観光地の割には小さなバーススパの駅舎を出て、町の中心部に向け歩き出した。バースの街の見所は町の中心部に集中している。バースの目玉ローマンバスを見て、それからガイドブックを見繕って2,3箇所回ればちょうどいい時間になるだろう。教会やホテルの並ぶ道を5分ほど歩くと、バース寺院のある広場が見えてきた。まだ朝早いせいか観光客はあまり多くない。街を周遊する定期観光バスの運転手も手持ち無沙汰にお客さんが来るのを待っている。バース寺院は「イングランド西部の灯火」と呼ばれ、1000年以上の歴史を誇る由緒ある寺院だ。外壁の8割を占める大きな窓が美しい。2.5ポンド払えば中に入れるのだが、外から眺めるだけで満足できたので中に入らず、寺院の反対側に回る。こちらも広場となっており、石畳の広場にベンチが並んでいた。もう少し時間がたてばこの広場も観光客でにぎわうのだろう。お目当てのローマンバスはこの広場に面して建っていた。石造りの重厚な建物だが、湯気は立ち上っていない。9:30オープンなので開館したばかりらしい。建物の中に入ると受付があり、ここで入館料10ポンドを払った。約2000円。16世紀から現代までの様々な衣装を集めたコスチューム博物館との共通チケットが13ポンドで売っていたが、特に興味がわかないのでパスした。チケットを受け取ると受付のおばさんが「ジャパニーズ?」と聞いてきた。「イエース」と答えるとおばさんは微笑みながら「ヨウコソ」と日本語で言った。イギリス人から日本語を聞いたのは3日目にして初めてだ。さすが観光地だけのことはある。

 おばさんから音声ガイドを受け取り建物の奥に進む。ここの音声ガイドは各国語が用意されており、ちゃんと日本語のものもあった。それぞれの見学スポットに掲示されている番号を押すと日本語の説明が聞けるのだ。突き当たりは廊下になっており、窓の下に大浴場の遺跡がある。現在もお湯が湧き出しており、濛々と白い湯気を上げている。2000年前は透明だったらしいのだが、現在は藻に覆われて緑色だ。夏ならばこの廊下から大浴場のテラスに出られるのだが、今はテラスへのドアが閉まっており、暖かい廊下から下を覗き込むことしかできない。外は横殴りの雪なので、あまり屋外に出たくない。ローマ時代を模して復元された彫刻達が雪にさらされ寒そうだ。

 階段を下りるとローマ時代の建物や人々の様子を復元した模型やCG映像、遺跡から発掘された当時の彫刻などが展示されている。機械から流れる日本語の案内を聞きながらじっくりと見て回る。ローマ時代の戦士の墓もあり、ガイドによれば当時戦士達は互助組合のようなものを作っており、誰かが死ぬと共同でお金を出し合ってお墓を作ったという。

 さらに階段を下りると温泉の取水口や排水溝、温泉の周辺施設の遺構を見学することが出来る。このローマ時代の取水口は現在も機能しており、2000年以上たった現在でも大量のお湯を取り込み、大浴場を満たした後、何に使うこともなく近くを流れるエイヴォン川に排水している。日本だったらこのお湯を使って温泉宿が立ち並ぶところだがもったいない。サウナや、床を二層式にして空いた空間にお湯を流すスチームバスの遺構などもあり、ローマ時代の技術力の高さとローマ人の温泉好きには大いに驚かされた。

 排水溝の横に大浴場へ通じるドアがあった。ドアを開けると猛烈な湯気が襲ってきた。眼鏡もカメラのレンズも一瞬にして曇る。慌ててレンズを拭き、ローマ時代の大浴場に向かってカメラを構えた。ローマ人が撤退した後長らく地中に埋もれていた大浴場の遺構は、18世紀に掘り起こされ、当時の形に復元された。現在は緑色のお湯を静かにたたえている。外壁の向こうにそびえるバース寺院の尖塔が美しい。当時は屋根があったのだが、むしろ無い方が気分よく入浴できるような気もする。残念ながら現在は鉄分が多すぎるため入浴できないのことだが、お湯は温かく、温泉自体がだめになったわけではないらしい。この遺跡を見ているとローマ人の温泉に賭ける熱意が伝わってくる。ヨーロッパのはずれの辺境の島で湧き出る温泉を見つけたローマ人はどれほど歓喜しただろう。彼らは喜びのあまり大浴場を作り、サウナ風呂を作り、挙句の果てには神殿まで作ってしまったのだ。

「ローマ人はこんなにも温泉好きだったというのに、何でイタリアのホテルじゃお湯が出ないんだろうな」

友人がつぶやく。以前イタリアで泊まったホテルではバスルームのシャワーから水しか出ず大変困ったそうだ。確かに風呂でお湯の出ない生活など自分には耐えられない。日本人でよかったと思う。

 大浴場を見学した後は、隣接した屋内の円形の浴場を見学し、階段を上がった。出口には売店があり、絵葉書などの定番物のほかにローマンバスの石鹸だとかスポンジなど、風呂にちなんだみやげ物がたくさん売られていた。またパンプルームという18世紀に立てられた上流階級の社交場もあり、現在はレストランになっている。ご飯時にはまだ早い時間ながら席はかなり埋まっていた。温泉のお湯も飲めるのだが、あまりおいしいという評判を聞かないので中には入らず、そのまま外に出た。

〜参考リンク〜
バース寺院ホームページ
ローマンバスホームページ

バースアビー
バースアビー


ローマンバスの前の広場
ローマンバス前の広場


ローマンバス
ローマンバス


源泉
お湯が湧き出している

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