イギリス紀行2006 〜英国紳士への道〜 第33回
コヴェントガーデンで最後の晩餐
 

コヴェントガーデン

4日目 2006年2月25日 (土)
コヴェントガーデンで最後の夕食をとりました。


33.コヴェントガーデンで最後の晩餐

 ホテルの部屋に戻り、スタジアムのグッズショップで大量に買い込んだチェルシーグッズをベットに放り投げた。夜はロンドン中心部に向かう予定なのでホテルに戻る必要は無かったのだが、週末の繁華街を歩くなら身軽になった方が良いだろう。目的は言うまでも無い。ちゃんとした夕飯だ。

 思えばイギリスに来てからちゃんとしたイギリス料理を食べていない。一昨日食べたフィッシュアンドチップスだって立派なイギリス料理なのだが、ファミレスに毛の生えたような店で、大して美味くも無いタラの揚げ物を食べただけではとても「イギリス料理を食べた!」とは言えないのである。このまま帰るわけにはいかない。もっとちゃんとしたものが食べたい。できればおいしいものが食べたい。先ほどのバスの中でガイドブックをめくり、見つけたのがコヴェントガーデンにあるポーターズというお店である。ヨークシャープディングやパイなどを出す伝統的なイギリス料理店だ。他にもおいしそうな店はたくさんあったのだが、日曜に開いており予約不要でドレスコードの無い店はここぐらいしかなかった。

 ホテルを出て再びハンマースミス駅に向かう。普段ならコヴェントガーデンへはピカデリーラインで一直線なのだが、例によって今日一日運休である。都心の大動脈を一日中止めてしまうなんて不便極まりない。やむを得ず遠回りのハマスミスアンドシティーラインに乗り、パディントン駅のさらに先、キングスクロス・セントパンクラス駅でピカデリーラインに乗り換えた。3駅ほど乗ればコヴェントガーデン駅に到着だ。電車を降りると繁華街だけあって人が多い。人の流れに従って出口に進む。しばらく歩くと突然流れが止まった。前を見ると大きな扉が三つ。エレベーターだ。何とこの駅には階段が無いのだ。ホームから改札へ上るにはエレベーターに乗らなければならない。エレベーターは30人以上乗れる大きなもので、地上に着くと目の前に改札口があった。

 駅周辺はロンドン有数の繁華街となっており、日曜の夜でも人通りはかなり激しい。中でも駅名の由来となったコヴェントガーデンは一大ショッピングセンターとして知られ、オードリーヘップバーン主演の『マイ・フェア・レディ』の撮影でも使われた。ただ残念ながら夜なのでお店の多くはすでに閉まっている。巨大なアーケードの下には昼まで使われていた椅子や机が高く積みあがっている。半地下にある飲食店の一部はまだ営業しており、皆思い思いに食べたり飲んだりしているのが見える。目的のポーターズという店はコヴェントガーデンを過ぎてすぐのところにあった。幸い行列は無かったが、女性店員が入口で言うには「30分は待つ」とのこと。我々の前には日本人の若者グループが椅子に座って待っている。彼らの次ということだろう。入口横にウィティングバーが併設されていたのでそこでエールを飲みながら順番を待つ。ウェイターの兄ちゃんがすらりとした長身で格好いい。彼からエールを受け取り、まずはチェルシーの勝利を祝して乾杯。ぬるいが美味い。すきっ腹なのでいい感じに回ってきた。2杯目を注文し、ちびちび飲んでいると先ほどの店員が呼びに来た。グラスを持ったまま席に移動する。やっと夕食にありつける。

 席に座ると美人の店員さんが気を利かせて日本語のメニューを持ってきてくれた。他のテーブルでも使うから早く決めてくれとのこと。なるほど店内を見渡すと日本人が多い。ガイドブックの力恐るべしである。色々迷ったのだがメニューを見ても味の想像がつかない。結局ステーキと腎臓のプディング(Steak & Kidney Pudding)、ステーキとギネスとキノコのパイ(Steak, Guinness and Mushroom Pie)を注文した。付け合せにポテトがつく。
 ステーキと腎臓のプディングはイギリスを代表する味らしい。牛の腎臓が入っていてちょっと癖はあるが、レバーのように苦味があると言うほどでも無くおいしく食べられる。狂牛病のことは気にしない。あとはステーキとギネスとキノコのパイ。キノコと牛肉をギネスビールで煮込んだものをパイで包んだものだ。これもまた美味い。パイ皮もさくさくとしていている。この店一の人気メニューというのもうなづける。すきっ腹も手伝ってあっという間に平らげてしまった。ワインを飲み、デザートを食べて終了。酔っていたためデザートに何が出たか覚えていない。あったかいパイにチョコレートがかかったものだったような気もする。

 美人の店員さんを呼び、会計を済ます。二人合わせて約40ポンド。おいしかったので高くは無い。むしろ安いと思った。満ち足りた気分で店を出る。すぐに地下鉄に乗って帰るのも手だが、満腹なのでしばらく歩いてから帰りたい。それに運休のせいで地下鉄だと遠回りになる。もしハマスミス行のバスがあればそれに乗ったほうが速いだろう。バスのあては無かったが、近くにチャリングクロスという大きな鉄道駅があるのでそこを目指して歩いてみた。ついでにトイレにも行きたい。

 頬を刺すような寒風だが、逆にそれが心地よい。駅前を走る大通りで信号待ちをしていると、ダンスミュージックを大音量で流しながら旧式の二階建てバスがやってきた。中では若者がバスを貸し切ってパーティーをしているらしい。ドアがないので中の音が丸聞こえだ。ルートマスターと呼ばれるこのバスは一般路線からは引退したのだが、貸し切りバスとして第二の人生を歩いているようだ。信号を渡り、チャリングクロス駅に入ると家路を急ぐ人で混みあっていた。トイレで用を足し、バス停を探す。案内板を見ると9系統のバスがハマスミス行きとなっている。これはラッキーだ。目的のバスは5分ほどでやってきた。2階の前の席が開いていたので早速座った。中ほどに座った若い女の子がやたらハイテンションで、やたらと周りの客に話しかけている。英語が分かれば話に入れるのだが、あいにくその女の子がどこから来たのかということぐらいしか分からない。その女の子は途中で降り、車内が静かになった。夜も遅いのに途中から乗ってくる人がとても多い。降りた人数だけ乗ってくるので二階席はほぼふさがったままだ。1時間ほど乗っただろうか。バス停ごとに客を乗せ、10時半頃にようやく終点ハマスミス駅に着いた。今日はロンドン最後の夜。楽しんで、食べて、飲んだ。お互い満足して眠りについた。

夜のコヴェントガーデン1
夜のコヴェントガーデン

夜のコヴェントガーデン2
夜のコヴェントガーデン

夜のチャリングクロス駅
チャリングクロス駅


チャリングクロス駅2
チャリングクロス駅


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