イギリス紀行2006 〜英国紳士への道〜 第34回
さようならロンドン
 

パディントン駅

5日目 2006年2月26日 (日)
ついに帰国の途へ。さようならロンドン。


5日目 2月26日(日)

34.さようならロンドン

 残念ながら今日がイギリス最後の日である。ヒースロー発成田行きの飛行機は午後1時の便なので、だいたい11時に空港に着くようホテルを出ればいいだろう。昨日に引き続き地下鉄ピカデリーラインは運休中。ピカデリーラインが動いていれば乗り換えなしで空港一直線なのだが、わざわざ土日に運休させるなんて嫌がらせとしか思えない。

しょうがないのでハンマースミス駅からまずパディントン駅に向かい、パディントン駅から高くて速い空港直通特急、ヒースローエキスプレスに乗る。地下鉄ハマスミスアンドシティ線でパディントン駅に行っても良いが、今日で最後の日だからロンドンの景色を見たい。私の希望を友人も了承し、スーツケースを抱えてバスに乗っていくことにした。1.5ポンドのチケットを券売機で買い、駅のバスターミナルからバスに乗り込む。時刻は9時半。まだ余裕がある。せっかくの2階建てバスだがスーツケースを持って2階に上がるわけには行かないので1階で我慢した。席と席の間が広いのでスーツケースを持っていても苦にならない。バスは狭い道をうねうねと走り、こまめに停留所に止まる。そのたびに、客が乗ったり降りたりする。パディントン駅に近づくにつれスーツケースを抱えた客が増えてきた。4,5人いたが、スーツケースのタグなどを見ると皆日本人らしい。ばらばらに乗ってきたので一人旅なのだろうか。

 走ること約20分。不意にバスの運転手が「ネクスト ストップ イズ パディントン ステーション!」と叫んだ。車窓を見てもどこを走っているのか分からないから親切だ。やがてバスが停車し、スーツケースを抱えたほかの客とともにバスを降りた。しかし降ろされた場所は道路上のバス停で、駅前広場はどこにもない。どこに駅があるのかと見回してみたところ、どうも駅の正面ではなく、駅の横に降ろされたらしい。バス停のそばにあった狭い階段を下りるとタクシー乗場があり、その向こうに駅への入口があった。入口を抜けると目の前がヒースローエキスプレスの乗り場である。次の発車は約15分後の10時25分。ホーム脇の券売機で空港行きの切符を買っていると、女性から英語で声をかけられた。

「すっすみません!ヒースローまでの切符の買い方を教えていただけませんか?」

英語である。かなり焦っているようだ。

「ここにクレジットカードを入れて、画面のここをタッチすればいいんですよ」

 ちょうど切符を買うところだった友人が英語で教え始めたが、どうも妙だ。この女性は日本人ではないのか。なぜ英語で話しかけてくるのだろう。するとどうやら同じ違和感を女性も感じたらしい。今度は日本語で話しかけてきた。

「あれ?ひょっとして日本の方ですか?」
「そうですよ」
「よかったぁ。一人で不安だったんですよ。日本人だと思って話しかけても中国人や韓国人だったりするし」
「ああ確かに多いですよね韓国人。じゃあ時間も無いことですし切符を買っちゃいましょう」

 我々三人は無事に切符を買い、ヒースローエキスプレスの真新しい電車に乗り込んだ。向かい合わせの椅子に3人で座り、色々とおしゃべりをした。聞くところによると彼女は一人旅で、ロンドン在住の友人のところに泊まっていたとか。一人旅とはなかなかチャレンジャーである。自分の英語力ではまだ無理だ。

「男の人の二人旅って珍しいですよね。でも楽しそうでうらやましいです」

 彼女は言う。確かに外人さん同士の男二人組なら見たのだが、日本人は女性グループが多く、男二人組はいなかった。珍しいのかもしれないが、10年来の友人だし、遠慮も気兼ねもいらないのはありがたいと思う。今回の旅行でもずいぶんと友人に頼った。このあたり一人旅にはない安心感がある。そんなことを話しているうちに電車はトンネルに入り、ヒースロー空港に到着した。パディントン駅から所要15分。地下鉄よりもだいぶ速い。

 エレベーターで出発ロビーに上がり、ヴァージンアトランティック航空のチェックインの窓口に並ぶ。長蛇の列が出来ているのだが、10箇所以上ある窓口の半分近くが閉じており、遅々として進まない。係員は余っている。しかし電話したり談笑したりとなかなか窓口に立ってくれない。結局手続が済むまで20分以上待たされた。
 出国手続きの後の手荷物検査でも30分以上待たされ、お土産を買い込むべく免税店に向かったころには出発まで1時間を切っていた。あまり時間が無い。私は職場向けにクッキーを買い、後は自分向けに紅茶やお菓子などを買い込む。店員さんが「オイシイ」と薦めてきたスコッチウイスキーも買う。帰国後両親に献上したら1日で空けられた。こうして財布に残っていたポンド紙幣をほぼ使いきり、会計を済ませてふと時計を見たら出発まで30分しかない。走って搭乗口に向かうと、女性の案内係が日本人だった。日本に帰るのだという実感がわいてくる。機内は行きと同じく満席。空港に向かっていた客室乗務員が事故に巻き込まれたとかで出発が1時間遅れたが、代わりの乗務員が到着して無事離陸した。

 日本までは約12時間。暗い機内でまどろみつつ、映画を見てすごした。眠れはしなかったが、特にゆれることもなく飛行機は成田空港に到着した。大してお土産を買わなかったので税関などはあっさり通過。無事スーツケースを取り戻し、自宅への帰路に着く。空港の喫茶店に寄ったらウェイトレスがにこやかに注文を聞いてくれた。ホームに下りればドアの位置案内と寸部違わぬ位置に電車が止まっており、発車時刻になると時間通りに発車した。車窓に広がる田んぼをぼんやり眺めているうちに、日本に帰ってきたという実感がわいてきた。


さようならハンマースミス
さようならハンマースミス


ヒースローエクスプレス
ヒースローエクスプレス


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