
11月の3連休を使って関西に行ってきました。
関西の未乗区間の乗りつぶしと、日本一長い距離を走る路線バス、そして保津峡や京都の紅葉を堪能することが今回の旅の目的です。
日本一の長距離路線バスは奈良県橿原市にある近鉄のターミナル駅大和八木と、紀伊半島の先端の新宮までを結ぶ奈良交通の路線です。
秘境十津川村を経由して紀伊半島を縦断し、距離にして約140キロ。全部乗ったら6時間半もかかります。バス停の数はなんと166個。NHKの旅番組にも取り上げられたほどの凄い路線です。
私が乗ったバスの時刻表です。
おまけにこのバスが通る国道168号線は道幅が狭く、大型バスで突っ込むにはスリルがあるのだとか。だからバスマニア以外の乗車も結構あるんだそうです。今回はスケジュールの都合で新宮から大和八木まで北上するルートを取り、その後京都に向かうことにしました。
人気blogランキング


まず1日目は関空から南海の多奈川線、加太線、和歌山港線といったローカル支線、和歌山電鉄に乗車しました。
和歌山電鉄と言えば猫のたま駅長が有名ですが、日曜はお休みとのこと。おっさんの観光客が「日曜こそ出勤させろや」と言ってましたがその通りだと思います。

その後和歌山から紀伊田辺まで下って終了。
おすし屋さんで太刀魚天丼を食べました。あっさり味で非常に美味!

2日目は朝一の紀伊田辺発の電車に乗って新宮に向かいました。

わざわざ田辺に泊まったのはこの区間の景色を眺めていないからです。以前乗ったのは10年前、今は廃止となった大阪発新宮行きの夜行快速列車でした。あの時は深夜でしたが、今回は朝。海沿いの綺麗な景色が見られるのはいいんですが、ロングシートの電車に3時間揺られるのは朝からきついです。

新宮駅に到着。徐福公園で時間を潰し、10:04発のバスを待ちます。
やってきたバスはマイクロバスでした。普段は大型車のはずなんですが。
バスに乗り込むと運転手さんが行き先を聞いてきました。
「お客さん。どちらまで?」
「八木まで乗ります」
「今十津川の国道が土砂崩れで通行止になってて迂回運転してるんですわ。ものすごく遅れますよ?」
「どれぐらい遅れるんですか?」
「そうやなぁ。いつもなら5分で行くところを40分かけて迂回するから・・・。道の込み具合もあるしわからんなぁ」
「そうですか」
「あとこのバスは十津川村役場で八木から来るバスに乗り換えになりますよ。そこで相当待ちますから八木までだと相当遅れます。大阪行くなら途中の五條駅で降りたほうがいいですわ」
要するに、先日の豪雨で十津川村下込之上地区内で土砂崩れがあり国道が通行止め。迂回路には大型バスが入れないため、大和八木駅〜十津川村役場前を通常の大型バスで、十津川村役場〜新宮駅をマイクロバスで運行しているとのこと。新宮から乗る場合は、途中の十津川村役場で八木駅からやってくる大型バスを待って乗り換えなければいけないのです。
これから乗るバスは十津川村役場着12:35、一方八木駅を9:15に出発し新宮に向け下ってくるバスが十津川村役場に着くのが13:08。時刻の上では30分待ちですが、迂回路で時間がかかるようですからどうなるか分かりません。まあ急ぎではないですから八木駅までたどり着ければ充分でしょう。

新宮を出たバスはまず熊野三山の一つ、熊野本宮に向かって登って行きます。

途中で滝が見えました。

1時間ほど走るとバスは国道をはずれ、山間の小さな温泉街に入っていきます。その中のひとつ、川湯温泉からは大和高田まで行くと言うカップルが乗ってきました。ここからだと5時間近くかかります。マニア以外も乗るんですね。確かに唯一の交通機関ですし、車で走るのは難儀な道です。

バスは狭い道をくねくねと走ります。湯峰温泉付近を通過。

大きな鳥居が見えてきました。熊野本宮です。

ここが有名な熊野本宮ですね。今度は熊野古道を歩きつつ、ゆっくり訪れてみたいと思います

和歌山県から奈良県十津川村に入りました。この辺りの国道168号線は新しく整備された道となっています。

12時過ぎに十津川温泉バス停に到着。奈良交通の営業所があり、十津川村営バスと乗り換えることができます。大和八木行のバスはここで1回目の休憩を取ります。

12:12。運転手さんが営業所の係員からトランシーバーを受け取り十津川温泉を出発。しばらくすると通行止めの標識があり、迂回路に突入しました。

迂回路はびっくりするほど狭い急坂です。バスは「路線バス先導車」と書かれたゼッケンをつけた白いバンに先導されながら登って行きます。
「ワゴンが1台来ます」
「黒いBMW来ます」
「あーミキサーが上がってきましたわ。広い所あります?」
先導するバンから次々と対向車の連絡が入ります。その度にバスはスペースを見つけて止まります。
すれ違い困難な道であるため、営業所の係員が先乗りして対向車をバスに教えているんですね。

眼下には十津川村の集落が見えます。

ようやっと狭い迂回路を抜け、国道168号線に合流しました。バス十津川に沿って走ります。
しかし国道とは言っても迂回路より多少マシな程度の狭い道です。

12:55。バスは30分遅れで十津川村役場に到着。新宮からのマイクロバスはここまで。役場の駐車場で八木駅から来るバスを待ちます。
八木からの大型バスがやってきたのは13:10ごろ。新宮からやってきたバスと並んで駐車し、お互いの乗客を入れ替えます。八木駅からやってきた客が新宮からやってきたマイクロバスに乗り換えた後、我々新宮からの客も運転手さんと一緒に八木からの大型車に乗り換えました。

13:20ごろ出発。すでに50分以上遅れています。バスは国道とは思えない狭い道を走ります。

風屋ダムがちょうど放水していました。かなりの迫力です。
14:00ごろ上野地到着。時間通りならここで20分の休憩を取ります。ただ遅れているのですぐ発車するだろうと思っていたら、運転手さんが後ろを振り返り、「吊り橋行く方はどうぞ降りてください」と言いました。
「吊り橋ですか?」
「お兄さん。せっかくだから吊り橋行ってきなよ。20分休憩だから、14:25までには戻ってきてや」
運転手さんに促されてバスを降り、吊り橋へと歩きます。
吊り橋の渡り口は歩いて3分ほどで着きました。

谷瀬の吊り橋。
地元の住民がお金を出し合って昭和29年に掛けられたこの橋は、高さ54m、長さ297m、日本最長の鉄線の吊り橋です。
20人以上同時に渡るなと書いてありますが、どうみても20人以上渡っているような気がします。

対岸が遠い・・・。

意を決して渡ります。幅80cmの板の上を歩くのですが、まあ揺れること。
ゆわーんゆわーんと揺れるため、掴まらないと落ちそうです。

なんとか渡りきりました。しかしバスの出発時間まであと10分しかないので急いで戻らなければなりません。

高所恐怖症の人はつらいでしょう。

板がこんな風になっています。デブが2人並んで歩いたら折れそうですね。

景色はいいんですが。
急いでバスに戻り、出発。少し走った大塔温泉夢乃湯では温泉帰りの客が、と言いながら乗り込んできました。
「いやー1時間待ったわ。せっかく暖まったのにすっかり冷えてもうたな」
「すいませんなー。途中土砂崩れで通行止めやさかい、迂回してるんですわ」
「あーあの道な。狭くて大変やろ」
「もう勘弁してほしいですわ。えらい急坂やし、マイクロバスはパワーが無いねん。すぐノックしよる」
ここからお客さんと運転手さんのおしゃべりが続きます。
「しかし狭い道やな。すれ違いも大変や」
「10月の連休の時なんか15分待っても車が途切れんからむりやり突っ込んだわ」
「所々は広くなってるんやな」
「新しくなった道はホント楽やわ。前は狭いし何が落ちてくるかわからんかったからな」

国道168号線はところどころ整備された2車線道路になりますが、ほとんど対向車とすれ違い困難な狭い道です。
川の対岸では新しい道の工事が行われていますが、遅々として進んでいないようです。
「あの工事中の新道はいつできるんやろ?」
「ここまでの新しい道作るのに10年かかってるから、あと7,8年はかかると違いますか」
「ずいぶん先やな。早く作ってほしいわ」
「国の偉い人はやれ廃止や凍結や言うてますけど、地元の人間にとっては大事な道なんやで」
大雨が降るたびに通行止めになる国道168号線の整備は地元住民の悲願なのでしょう。
都会の人間にはわからない、地方の実情を垣間見ました。

しばらく走ると立派な鉄橋が見えてきました。開通することなく終わった幻の鉄道。国鉄五新線の遺構です。
五新線は奈良県五條市にある和歌山線の五条駅から紀勢本線の新宮駅までを結ぶ路線として計画され、1939年に工事が始まりました。
戦後も五条駅から五條市大塔町阪本までを先行開通させるべく工事が続けられましたが、国鉄再建法により1982年に工事が凍結。すでに五条駅〜城戸間の路盤が完成し、城戸〜阪本間も開業しても採算が見込めないため、五新線は開通することなく断念されました。現在五条〜城戸間はバス専用道として転換されたほか、すでに完成していた全長5キロの天辻トンネルは大阪大学大塔コスモ観測所として再利用されています。

城戸付近で新宮行きのバスとすれ違います。前方には五新線の遺構。国鉄城戸駅ができるはずだった高架線の上には、国鉄バス時代に造られたバスの待合所があります。実は五條〜城戸間の専用道を走るバスには数年前乗ったことがありますので、日を改めて紹介しましょう。

バス専用道となった五新線の遺構をくぐります。

午後4時過ぎ。五条駅で客を降ろし、続いてショッピングセンターに併設された五條バスセンターに到着。
本来なら20分休憩を取りますが、遅れているのでトイレ休憩だけで出発。あとは市街地を大和八木に向けて走ります。橿原のイオン付近が渋滞していました。


17:15分。45分遅れで大和八木駅に到着。整理券番号が107まであります。私は運賃箱に5000円札と250円を突っ込み、運転手さんに「はいお疲れ様でした。おおきに」と言われバスを降りました。長い長いバスの旅でした。私は一旦大阪に向かって市営地下鉄長堀鶴見緑地線に乗り、その後京都のホテルに泊まりました。
次回に続きます。