
ニューヨーク旅行記の第6回です。
3日目、2012年7月16日。
ナイアガラの滝から路線バスでバッファローのダウンタウンに戻り、マイナーリーグ観戦に出かけました。
今日は元ロッテのヴァレンティーノ・パスクチが所属するバッファロー・バイソンズ対トレド・マッドヘンズとの試合です。
試合は19時からのナイトゲーム。試合後にはパスクチと話すこともできました。
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■ 3日目 2012年7月16日 月曜日

ナイアガラの滝を観光して、バッファローのダウンタウンにバスで戻ります。この後はダウンタウンのコカ・コーラフィールドでナイター観戦です。
元ロッテで私が大ファンであるところのヴァレンティーノ・パスクチが所属するバッファロー・バイソンズ対トレド・マッドヘンズの試合は19:05からです。ダウンタウンまでは1時間近くかかりますから、17時ごろまでにはナイアガラを出発したいものです。
バス停には時刻表がありません。ネットで確認する限り16:48にここを通るバスがあるようなのですが、17時を過ぎてもやってきません。本当に来るのでしょうか。

バスは17:05ごろにようやくやってきました。15分以上遅れています。
バスは混み合っており、観光客や地元の客で満席でした。観光客はみんな寝ています。
幸運にも途中で座ることができ、17:40ごろに無事ダウンタウンに到着しました。

立派で少し不気味なバッファロー市庁舎のそばのバス停で下車し、ホテルに向かって歩きます。
地図を見る限りは10分ほど歩けば着くようです。もう18時ですし、平日の退勤時刻のはずなのですが、歩いている人はほとんどいません。ここは本当にダウンタウンなのでしょうか。この立派なビルもひと気がなく、どうやら廃ホテルのようです。

10分ほど歩いてホテルが見えてきました。
今日のホテルは「Hampton Inn & Suites Buffalo/Downtown」というホテルです。
ネットで見る限り評判がとても良いので選びました。
ホテルの前にはタクシーがいません。チェックインし、部屋に向かいます。

部屋に入ってびっくり。ベッドの隣に風呂があります。しかもジェットバスです。これは後で入らなければならないでしょう。部屋自体は広くて清潔で、ネットも無料で使えました。もちろんユニットバスも別にありました。

荷物を置いてホテルを出ました。ダウンタウンの中心部にある野球場、コカ・コーラフィールドを目指します。
地図を目指す限りは徒歩20分。平日の夕方なのに、やはり歩いている人があまりいません。

20世紀初頭に栄えたバッファローには歴史を感じさせる建物が数多くあります。
正面左に見えているのは銀行です。

ここを曲がるとバッファロー・ダウンタウンのメインストリートです。
メインストリートの中央には無料のトラムが走っています。
そしてメインストリートの両側には銀行やお店が並んでいます。
しかし、私は目の前に広がる異様な光景に、思わず息をのみました。
道の両側に並ぶほぼすべての建物が空き店舗なのです。
かつては洒落た商店街だったのでしょう。
今はメインストリートという名前とは裏腹に、閉鎖された店が並ぶだけで、道行く人はわずか。
足早に歩くスーツ姿の男性もいますが、所在無げにたむろする黒人の姿が目立ちます。

どの店も閉鎖されて時間が建っているのか、少々荒れています。
それがものすごく不気味です。

この店も閉鎖されています。借り手もなく、放置されています。
メインストリートを500メートルほど歩きましたが、開いているのはファーストフードのサブウェイと、銀行が数軒あるのみでした。あとは全部空き店舗です。シャッター街どころではありません。まるで廃墟です。
おそらく治安の悪さを嫌って郊外に逃げ出していったのでしょう。かつてダウンタウンに住んでいた白人はほとんど郊外に移り住んでしまいました。今のダウンタウンにはほとんど黒人しか住んでおらず、しかも貧困層が多いのだそうです。
これが荒廃したダウンタウンの姿なのか。
治安の悪さでは全米屈指と言われるバッファローのダウンタウン。
日本に住んでいては味わうことのないであろう怖さがそこにありました。
バッファロー地区のwikiには「バッファローのダウンタウンなど 治安の悪いとされる場所には、昼間であっても一人で行かない方がいいでしょう。夜間はよっぽどの用事がない場合を除き行かない方が賢明です。バッファローの地下鉄、電車の駅の周辺は治安が悪い場所が多いので、夜遅く一人で公共交通機関を利用するのは避けましょう。」と書いてありますが、確かに夕暮れからこの雰囲気では、夜に一人で歩くのは不可能でしょう。
「どこがメインストリートなんだコノヤロー!」
よどんだ空気とピリピリとした雰囲気、自然と早足になります。周囲に怪しい人物がいないのを確認して、写真を何枚か撮りました。

不気味なメインストリートを通り抜けてコカ・コーラフィールドにたどり着きました。
今日はここでバッファロー・バイソンズ対トレド・マッドヘンズのナイトゲームを観ます。
私はパスクチの大ファンなので、試合後はパスクチに会ってロッテ復帰へのオファーを出したいですね。
試合開始は19:05です。

窓口でチケットを買います。全席指定ですが、1階席は8ドル均一でした。

チケットを買い、パスクチユニを着て球場に突撃しました。

時間があるので球場内部をうろつきます。グッズショップが2か所あり、ユニフォームやTシャツや帽子などが売られています。選手の名前が入ったグッズはありませんでした。

食べ物を売るブースもかなり充実しています。私はピザとビールを購入。ここでもパスポートを見せろと言われました。

今日のスタメンが掲示されています。
ショック!なんと昨日の試合でホームランを打ったパスクチがスタメンを外れています。
うわー、なんということだ!
せっかく苦難を乗り越えてバッファローまで来たというのにパスクチが試合に出ないとは!!!
ガッカリです。昨日見に行っておいてよかった・・・。

スタンドに出て指定された席に座りました。
コカ・コーラフィールドは旧称ダン・タイヤ・パーク。マイナーリーグの球場にしてはずいぶん立派です。
それもそのはずで、もともとメジャーリーグの球団を誘致するために建設されたのです。
現在の収容人数は18,025人ですが、拡張工事を行えば4万人程度まで収容できるようになっています。

試合開始前のイベントで、バイソンズのマスコットがグラウンドにいます。
びっくりするほどかわいくありません。

試合開始。私はパスクチが出ていないのでヤケ酒です。
こちらはバッファロー・バイソンズの先発Matt Harvey。7回途中まで投げて2失点。
特筆することは特にありません。良いピッチャーだと思います。

コカ・コーラフィールドではイニングの間にファンをグラウンドに入れるイベントを頻繁に行います。
どのイベントにもスポンサーがついています。これはお菓子メーカーによる玉入れ競争です。

ベンチに入っているパスクチを観ようと、ベンチの反対側の3塁側にやってきました。

こちらはトレド・マッドヘンズの先発Thad Weber。7回2失点で制球もよく、安定したピッチングでした。

妙な被り物をしたビール売りのおじさん。「コーンヘッド」と呼ばれ、球場の名物のひとつなのだそうです。

ベンチで暇そうにしているパスクチを発見。早く出てきてくれー。

せっかくなのでいろいろな角度から試合を見てみましょう。バックネット裏に移動です。

ビジョンでは3Aのオールスターゲームで行われたホームラン競争の場面が映されています。パスクチがホームランをかっ飛ばしました。

パスクチがホームラン競争で優勝したシーン。球場も盛り上がっています。なぜスタメンで出さないのでしょう。

またイニング間にイベントをやっています。これは地元でバス・トラムを運行するナイアガラフロンティア交通局による玉入れコンテストです。
こうして少しでもファンを楽しませようとする姿勢はとてもいいですね。マリーンズも2005年から2007年ぐらいまでやっていたのですが、最近はファンサービスが大きく後退しています。バイソンズの姿勢をマリーンズも見習ってほしいです。

チャンス到来です。騒げ!ということなので、「パスクチを出せー!」と叫んでみました。

代走パスクチ?いえ、1塁ベースコーチパスクチです。マイナーの試合では試合に出ていない選手がベースコーチを務めることがあるようです。

20:30を過ぎ、日が暮れてきました。試合は2−2の同点です。
やはり平日だからでしょうか。お客さんは少ないですね。
客層はさまざまで、お年寄りの夫婦からおっさんおばさん、若者に小さな子供と様々です。
特に子供の姿が目立ちます。この街でもマイナーリーグ観戦は身近な娯楽となっているのでしょう。
ですが、不思議なことに観客の中には黒人が全くいません。バッファローのダウンタウンやその周辺に黒人しか住んでいないにもかかわらずです。
球場の外は黒人ばかり、球場の中は白人ばかり。バッファローのいびつな姿が表れています。

球場係員によるグッズの投げ込みがありました。

イニング間のイベントでマスコットが踊っています。
何度見ても可愛くないです。むしろ怖いです。左の方が若干とっつきやすそうです。

場内を盛り上げるマスコット。顔が怖いですが、かわいらしさを100%そぎ落とした風貌には清々しささえ覚えます。

マスコットの一人が客とハイタッチしながら階段を上がってきます。
私も手を出してハイタッチをねだりました。
奴は力任せにバシッとハイタッチしていきました。
痛い!
アメリカ人の全力は痛いです。
私はブーマーとハイタッチして肩を脱臼した門田の心境になりました。

試合は終盤8回裏。2−2の同点です。
この回の先頭バッターが打席に入ると、ネクストバッターズサークルにパスクチが出てきたのです。
うぉー!パスクチー!待ってたぞー!
パスクチが勝ち越しの一打を放ってくれるのでしょうか。期待は否応にも高まります。
しかし信じられないことが起こりました。
先頭バッターが四球を選ぶと、パスクチはベンチに引っ込んでしまったのです。そんな殺生な!
まあ考えてみれば当然の話で、終盤の同点の場面で無死1塁なら送りバントですよね。
パスクチに送りバントはできませんから、バントが得意なバッターを代わりに送ったのでしょう。
なんということ、ぬか喜びでした。
送りバントは成功しても、次のバッターにもその次のバッターにも代打パスクチが告げられる気配はありません。
これは非常にまずいです。万が一8回裏に点が入ってしまうと、9回表をバイソンズが抑えれば試合が終わってしまい、パスクチに出番はありません。
ここはなんとしても9回裏をやってもらわねば!
地元のバイソンズファンには申し訳ありませんが、私は「点取るなよー、取るなよー」と祈りながら試合を見つめました。

幸いにも、と言っていいのかどうかわかりませんが8回裏は無得点。
逆に9回表にはバイソンズのリリーフが打たれ、2点を入れられてしまいました。4番手のクリス・ブーチェックが後続を断ち、2点ビハインドで9回裏を迎えます。そういえばクリス・ブーチェックって元横浜でしたね。写真を撮っておけばよかったです。

9回裏に入る前の小イベント。ビジョンに映ったらキスしてくださいというものです。
若いカップルから老夫婦まで、みんな恥ずかしがることもなくキスをしていました。この辺りは文化の違いですね。
なんだか微笑ましい光景です。

最終回。もうパスクチに出番はないのか・・・。
しかし、天は私を見離しませんでした。
9回裏、1死2,3塁の大チャンスで代打パスクチが登場したのです。
やったー!

一打同点、ホームランならサヨナラ勝ちの大チャンスに球場が盛り上がります。
スタンドのあちこちから「パスクチー」、「ゴー!バレンティーノ」という声援が飛びます。

ファールで粘るパスクチ。さあ!打ってヒーローになってくれ!

残念ながら結果は三振。チャンスを活かすことができませんでした。

肩を落としてベンチに下がるパスクチ。
マイナーリーグは厳しい世界です。パスクチのように実績がある選手でも成績が振るわなければシーズン途中で解雇されてしまいます。
試合はそのまま2−4で終了。バイソンズの負け試合となりました。
ですが、試合が終わっても私の戦いはまだ終わりません。むしろここからが本番です。
ずっと前から、パスクチにどうしても伝えたいことがあるのです。
試合後にパスクチに会って話をしなくては!千葉ロッテマリーンズに戻ってきてくれと伝えなければ。
できればサインもほしいです。
そこで、試合終了後に出待ちを敢行することにしました。
ゲートのそばにいた球場職員に「パスクチのサインがほしいんですがどこで待てばいいですか?」と聞きました。
案内された球場裏の駐車場で、パスクチが出てくるのを待ちます。私のほかにもベースボールカードのファイルを持ったアメリカ人野球マニアが数人いて、選手たちを待っていました。

待つこと20分。私服姿のパスクチがやってきました。ロッテユニの私に気づいたようです。私が意を決して話しかけると、6年前と変わらない笑顔で応対してくれました。
「パスクチ選手!会えてうれしいです。日本からパスクチ選手を応援しにやってきました」
「日本から来たの?ロッテファン?ロッテ、ヨロシク!」
パスクチは日本語が少しわかるようです。
「多くの千葉ロッテマリーンズファンがパスクチ選手のマリーンズ復帰を望んでいます。私もそうです」
と英語で伝えると、力強い日本語で、
「オナジ!」
と返事してくれました。
パスクチは、マリーンズに戻りたがっている!
自分はその言葉を聞くために、海を渡ってここまで来たんです。
自分の念願がかないました。嬉しい!心の中に充実感と高揚感があふれます。
他にも色々言いたいことや、聞きたいことがあったのです。ただ苦労してここまでたどり着いて、いざ本人を目の前にすると舞い上がってしまい、言葉が出てきませんでした。

でもサインはもらいました。
「俺のユニフォームにもサインしてあげるよ」
と、パスクチユニにもサインしてもらったばかりか、
「折角だから記念撮影しよう」
と、周りにいたアメリカ人の野球マニアに写真を撮るよう指示し、一緒に記念撮影してくれたのです。
なんていい男なんだパスクチは!
ファンサービスの塊じゃありませんか。
ここ数年のマリーンズはファンサービスが低下していますから、テコ入れのためにもパスクチが必要ですね。
で、調子に乗った私はマリーンズファンへのメッセージを動画撮影させてほしいと頼み、「英語でいい?」と快諾してもらって、こちらのビデオメッセージの撮影に成功したのでした。
パスクチと固い握手をして別れると、地元の野球ファンに声をかけられました。
「日本から来たのか?」
「ありがとう。俺は千葉ロッテマリーンズのファンで、パスクチの大ファンなんだ」
「ワオ!すごいな!」
すべてがうまくいきました。
しかし、至福の瞬間が終わって冷静になると、自分が置かれた危険な状況を思い出してしまいました。
私は今、全米屈指の治安の悪さを誇るバッファローのダウンタウンに、たった一人でいるのです。
しかも時刻は23時。深夜のダウンタウンは本当に誰も歩いていません。
どうやってホテルに帰ればいいのでしょうか。
グーグルマップで調べた限りでは、球場近くのトラム乗り場からトラムに5駅乗って、そこから歩けばいいことになっています。
ただ、それはダウンタウンの実情を無視した机上の空論です。
球場から見えているトラム乗り場には誰もいません。反対方向に行くトラムも見ましたが、誰も乗っていません。
あんな誰もいないところでトラムを待っていたらどうなるでしょうか。
怖い・・・。とてもトラムには乗れません。それに治安情報にも「夜一人でトラムに乗るな」と書いてあります。
ならば歩いて?
それも無理です。
誰もいないのに、誰かに見られているようなこの感覚。不気味に静まり返る道の物陰には、凶悪な犯罪者が隠れているかもしれません。
静まり返った廃墟の向こうには麻薬の売人が取引しているかもしれません。
「バッファローのダウンタウンは強盗、ひったくり、強姦、時には殺人事件などが珍しくない地区です」
ネットのどこかで見た一文が頭をよぎりました。
犯罪に巻き込まれても助けてくれる人はいないのです。
そんな場所を深夜に一人で歩いたら冗談抜きで殺されてしまうかもしれません。
これはまずい。死ぬほどまずい。
ホテルまでの足を確保しないで来たのは無謀でした。
ホテルのフロントか球場の人に頼んでタクシーの電話番号を教えてもらうべきだったのです。
私は本気で生命の危機を感じました。

とにかくタクシーです。タクシーを捕まえるしかありません。
幸い球場のすぐそばにグレイハウンドなどの長距離バスのバスターミナルがあり、24時間体制でバスが発着するといいます。
ここならばバスでバッファローにやってきた客目当てのタクシーがいるでしょう。
私は周囲に人がいないことを確認し、全速力でバッファローのバスターミナルに駆け込みました。
バスターミナルの広い駐車場にはパトカーが止まっており、バスターミナルには灯りがついています。
バスターミナルの前にはタクシーも止まっていました。よかった。これならホテルにたどり着けそうです。
しかし、私が意を決してタクシードライバーに話しかけると、なんと乗車拒否されてしまいました。
「ダウンタウンのハンプトンイン?近いから嫌だね。そのホテルは無料送迎しているはずだから、ホテルに電話してみなよ」
「いやいや、乗せてくださいよ」
「だからホテルに電話しなって」
そんな殺生な。たしかに徒歩20分と近いですけど。
仕方ありません。電話をするため私はバスターミナルの中に入りました。
バスターミナル内は深夜にもかかわらず長距離バスを待つ客が数十人いてにぎやかです。
警官が常駐しているようで、治安はそこそこ保たれているようでした。
私は携帯電話を取り出し、ホテルに電話をかけてみました。
「今日泊まる者です。今バスターミナルにいるのですが、迎えに来てもらえないでしょうか」
「申し訳ありませんが、無料送迎は空港だけなんです。バスターミナルからはタクシーで来てください」
トホホ。ホテルの送迎は断られてしまいました。こうなったらなんとか交渉してタクシーに乗るしかありません。
建物の外に出ると先ほど乗車拒否したドライバーが暇そうにしています。
日本ハムファイターズで5番を打ってそうな、ガタイのいい黒人の兄さんです。
「ホテルに電話してみたけど、送迎は空港だけだって言われました。お願いですから乗せてください」
「えー、でも近いんだよなー」
「いくら出せば行ってくれますか?」
「うーん」
「ハウマッチ!」
「20ドルだ!」
「オーケー!その金額でいいです。乗せてってください」
交渉成立です。少々高いですが、乗せてくれなければ命が危ないのです。この際やむを得ません。
まあ1600円ですから、深夜料金と思えばいいでしょう。
タクシーに乗り込むとメーターがありません。無線がひっきりなしになっていますからモグリのタクシーではないのでしょうが、不思議です。
いかつい黒人ドライバーは言い値が通ったからか、先程とはガラリと変わって上機嫌になりました。
「バッファローにはなぜ来たんだ?大学の試験か?」
「いや、野球観戦です。バッファロー・バイソンズの試合を見に来たんです」
「野球か、そりゃいいな」
どうやら学生と間違えられたようです。お金を持ってないと思われたかもしれませんね。
「野球好きなのか?」
「大好きです」
「ニューヨークメッツは知ってるか?」
「もちろん。以前ボビー・バレンタインが監督をしてましたね」
「じゃあニューヨークヤンキースは?」
「ヒデキ・マツイがいましたね」
「じゃあシカゴ・ホワイトソックスは?」
「タダヒト・イグチがいましたね」
そんな話をするうちにホテルが見えてきました。ホテルまでは5分ちょっと、タクシーなら一瞬です。
私はドライバーにチップ込みで22ドル渡してタクシーを降りました。
ああ・・・、怖かった・・・。
死ぬかと思いましたが、なんとか無事にホテルにたどり着けた・・・。
いやもう本当に危ないところでしたよ。心底ほっとしましたね。何も無かったのが奇跡です。
明日の朝は球場の近くのアムトラックの駅に行かなければなりませんが、問答無用でタクシーでしょう。
私はフロントで明日タクシーを呼んでもらえないか頼んだところ、快く引き受けてもらいました。
「明日は何時に出ますか?7時?場所はバッファロー・エクスチェンジステーションですね。わかりました。手配しておきます」
これで明日の朝は安心です。私はフロントに礼を言って部屋に戻り。ベッドの横に鎮座しているジェットバスを堪能してから眠りにつきました。
今日はいろいろなことがありました。
明日は1日かけてニューヨークに戻り、夜はマンハッタンの夜景観賞です。
7月16日の試合結果
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ナイアガラの滝を観光して、バッファローのダウンタウンにバスで戻ります。この後はダウンタウンのコカ・コーラフィールドでナイター観戦です。
元ロッテで私が大ファンであるところのヴァレンティーノ・パスクチが所属するバッファロー・バイソンズ対トレド・マッドヘンズの試合は19:05からです。ダウンタウンまでは1時間近くかかりますから、17時ごろまでにはナイアガラを出発したいものです。
バス停には時刻表がありません。ネットで確認する限り16:48にここを通るバスがあるようなのですが、17時を過ぎてもやってきません。本当に来るのでしょうか。

バスは17:05ごろにようやくやってきました。15分以上遅れています。
バスは混み合っており、観光客や地元の客で満席でした。観光客はみんな寝ています。
幸運にも途中で座ることができ、17:40ごろに無事ダウンタウンに到着しました。

立派で少し不気味なバッファロー市庁舎のそばのバス停で下車し、ホテルに向かって歩きます。
地図を見る限りは10分ほど歩けば着くようです。もう18時ですし、平日の退勤時刻のはずなのですが、歩いている人はほとんどいません。ここは本当にダウンタウンなのでしょうか。この立派なビルもひと気がなく、どうやら廃ホテルのようです。

10分ほど歩いてホテルが見えてきました。
今日のホテルは「Hampton Inn & Suites Buffalo/Downtown」というホテルです。
ネットで見る限り評判がとても良いので選びました。
ホテルの前にはタクシーがいません。チェックインし、部屋に向かいます。

部屋に入ってびっくり。ベッドの隣に風呂があります。しかもジェットバスです。これは後で入らなければならないでしょう。部屋自体は広くて清潔で、ネットも無料で使えました。もちろんユニットバスも別にありました。

荷物を置いてホテルを出ました。ダウンタウンの中心部にある野球場、コカ・コーラフィールドを目指します。
地図を目指す限りは徒歩20分。平日の夕方なのに、やはり歩いている人があまりいません。

20世紀初頭に栄えたバッファローには歴史を感じさせる建物が数多くあります。
正面左に見えているのは銀行です。

ここを曲がるとバッファロー・ダウンタウンのメインストリートです。
メインストリートの中央には無料のトラムが走っています。
そしてメインストリートの両側には銀行やお店が並んでいます。
しかし、私は目の前に広がる異様な光景に、思わず息をのみました。
道の両側に並ぶほぼすべての建物が空き店舗なのです。
かつては洒落た商店街だったのでしょう。
今はメインストリートという名前とは裏腹に、閉鎖された店が並ぶだけで、道行く人はわずか。
足早に歩くスーツ姿の男性もいますが、所在無げにたむろする黒人の姿が目立ちます。

どの店も閉鎖されて時間が建っているのか、少々荒れています。
それがものすごく不気味です。

この店も閉鎖されています。借り手もなく、放置されています。
メインストリートを500メートルほど歩きましたが、開いているのはファーストフードのサブウェイと、銀行が数軒あるのみでした。あとは全部空き店舗です。シャッター街どころではありません。まるで廃墟です。
おそらく治安の悪さを嫌って郊外に逃げ出していったのでしょう。かつてダウンタウンに住んでいた白人はほとんど郊外に移り住んでしまいました。今のダウンタウンにはほとんど黒人しか住んでおらず、しかも貧困層が多いのだそうです。
これが荒廃したダウンタウンの姿なのか。
治安の悪さでは全米屈指と言われるバッファローのダウンタウン。
日本に住んでいては味わうことのないであろう怖さがそこにありました。
バッファロー地区のwikiには「バッファローのダウンタウンなど 治安の悪いとされる場所には、昼間であっても一人で行かない方がいいでしょう。夜間はよっぽどの用事がない場合を除き行かない方が賢明です。バッファローの地下鉄、電車の駅の周辺は治安が悪い場所が多いので、夜遅く一人で公共交通機関を利用するのは避けましょう。」と書いてありますが、確かに夕暮れからこの雰囲気では、夜に一人で歩くのは不可能でしょう。
「どこがメインストリートなんだコノヤロー!」
よどんだ空気とピリピリとした雰囲気、自然と早足になります。周囲に怪しい人物がいないのを確認して、写真を何枚か撮りました。

不気味なメインストリートを通り抜けてコカ・コーラフィールドにたどり着きました。
今日はここでバッファロー・バイソンズ対トレド・マッドヘンズのナイトゲームを観ます。
私はパスクチの大ファンなので、試合後はパスクチに会ってロッテ復帰へのオファーを出したいですね。
試合開始は19:05です。

窓口でチケットを買います。全席指定ですが、1階席は8ドル均一でした。

チケットを買い、パスクチユニを着て球場に突撃しました。

時間があるので球場内部をうろつきます。グッズショップが2か所あり、ユニフォームやTシャツや帽子などが売られています。選手の名前が入ったグッズはありませんでした。

食べ物を売るブースもかなり充実しています。私はピザとビールを購入。ここでもパスポートを見せろと言われました。

今日のスタメンが掲示されています。
ショック!なんと昨日の試合でホームランを打ったパスクチがスタメンを外れています。
うわー、なんということだ!
せっかく苦難を乗り越えてバッファローまで来たというのにパスクチが試合に出ないとは!!!
ガッカリです。昨日見に行っておいてよかった・・・。

スタンドに出て指定された席に座りました。
コカ・コーラフィールドは旧称ダン・タイヤ・パーク。マイナーリーグの球場にしてはずいぶん立派です。
それもそのはずで、もともとメジャーリーグの球団を誘致するために建設されたのです。
現在の収容人数は18,025人ですが、拡張工事を行えば4万人程度まで収容できるようになっています。

試合開始前のイベントで、バイソンズのマスコットがグラウンドにいます。
びっくりするほどかわいくありません。

試合開始。私はパスクチが出ていないのでヤケ酒です。
こちらはバッファロー・バイソンズの先発Matt Harvey。7回途中まで投げて2失点。
特筆することは特にありません。良いピッチャーだと思います。

コカ・コーラフィールドではイニングの間にファンをグラウンドに入れるイベントを頻繁に行います。
どのイベントにもスポンサーがついています。これはお菓子メーカーによる玉入れ競争です。

ベンチに入っているパスクチを観ようと、ベンチの反対側の3塁側にやってきました。

こちらはトレド・マッドヘンズの先発Thad Weber。7回2失点で制球もよく、安定したピッチングでした。

妙な被り物をしたビール売りのおじさん。「コーンヘッド」と呼ばれ、球場の名物のひとつなのだそうです。

ベンチで暇そうにしているパスクチを発見。早く出てきてくれー。

せっかくなのでいろいろな角度から試合を見てみましょう。バックネット裏に移動です。

ビジョンでは3Aのオールスターゲームで行われたホームラン競争の場面が映されています。パスクチがホームランをかっ飛ばしました。

パスクチがホームラン競争で優勝したシーン。球場も盛り上がっています。なぜスタメンで出さないのでしょう。

またイニング間にイベントをやっています。これは地元でバス・トラムを運行するナイアガラフロンティア交通局による玉入れコンテストです。
こうして少しでもファンを楽しませようとする姿勢はとてもいいですね。マリーンズも2005年から2007年ぐらいまでやっていたのですが、最近はファンサービスが大きく後退しています。バイソンズの姿勢をマリーンズも見習ってほしいです。

チャンス到来です。騒げ!ということなので、「パスクチを出せー!」と叫んでみました。

代走パスクチ?いえ、1塁ベースコーチパスクチです。マイナーの試合では試合に出ていない選手がベースコーチを務めることがあるようです。

20:30を過ぎ、日が暮れてきました。試合は2−2の同点です。
やはり平日だからでしょうか。お客さんは少ないですね。
客層はさまざまで、お年寄りの夫婦からおっさんおばさん、若者に小さな子供と様々です。
特に子供の姿が目立ちます。この街でもマイナーリーグ観戦は身近な娯楽となっているのでしょう。
ですが、不思議なことに観客の中には黒人が全くいません。バッファローのダウンタウンやその周辺に黒人しか住んでいないにもかかわらずです。
球場の外は黒人ばかり、球場の中は白人ばかり。バッファローのいびつな姿が表れています。

球場係員によるグッズの投げ込みがありました。

イニング間のイベントでマスコットが踊っています。
何度見ても可愛くないです。むしろ怖いです。左の方が若干とっつきやすそうです。

場内を盛り上げるマスコット。顔が怖いですが、かわいらしさを100%そぎ落とした風貌には清々しささえ覚えます。

マスコットの一人が客とハイタッチしながら階段を上がってきます。
私も手を出してハイタッチをねだりました。
奴は力任せにバシッとハイタッチしていきました。
痛い!
アメリカ人の全力は痛いです。
私はブーマーとハイタッチして肩を脱臼した門田の心境になりました。

試合は終盤8回裏。2−2の同点です。
この回の先頭バッターが打席に入ると、ネクストバッターズサークルにパスクチが出てきたのです。
うぉー!パスクチー!待ってたぞー!
パスクチが勝ち越しの一打を放ってくれるのでしょうか。期待は否応にも高まります。
しかし信じられないことが起こりました。
先頭バッターが四球を選ぶと、パスクチはベンチに引っ込んでしまったのです。そんな殺生な!
まあ考えてみれば当然の話で、終盤の同点の場面で無死1塁なら送りバントですよね。
パスクチに送りバントはできませんから、バントが得意なバッターを代わりに送ったのでしょう。
なんということ、ぬか喜びでした。
送りバントは成功しても、次のバッターにもその次のバッターにも代打パスクチが告げられる気配はありません。
これは非常にまずいです。万が一8回裏に点が入ってしまうと、9回表をバイソンズが抑えれば試合が終わってしまい、パスクチに出番はありません。
ここはなんとしても9回裏をやってもらわねば!
地元のバイソンズファンには申し訳ありませんが、私は「点取るなよー、取るなよー」と祈りながら試合を見つめました。

幸いにも、と言っていいのかどうかわかりませんが8回裏は無得点。
逆に9回表にはバイソンズのリリーフが打たれ、2点を入れられてしまいました。4番手のクリス・ブーチェックが後続を断ち、2点ビハインドで9回裏を迎えます。そういえばクリス・ブーチェックって元横浜でしたね。写真を撮っておけばよかったです。

9回裏に入る前の小イベント。ビジョンに映ったらキスしてくださいというものです。
若いカップルから老夫婦まで、みんな恥ずかしがることもなくキスをしていました。この辺りは文化の違いですね。
なんだか微笑ましい光景です。

最終回。もうパスクチに出番はないのか・・・。
しかし、天は私を見離しませんでした。
9回裏、1死2,3塁の大チャンスで代打パスクチが登場したのです。
やったー!

一打同点、ホームランならサヨナラ勝ちの大チャンスに球場が盛り上がります。
スタンドのあちこちから「パスクチー」、「ゴー!バレンティーノ」という声援が飛びます。

ファールで粘るパスクチ。さあ!打ってヒーローになってくれ!

残念ながら結果は三振。チャンスを活かすことができませんでした。

肩を落としてベンチに下がるパスクチ。
マイナーリーグは厳しい世界です。パスクチのように実績がある選手でも成績が振るわなければシーズン途中で解雇されてしまいます。
試合はそのまま2−4で終了。バイソンズの負け試合となりました。
ですが、試合が終わっても私の戦いはまだ終わりません。むしろここからが本番です。
ずっと前から、パスクチにどうしても伝えたいことがあるのです。
試合後にパスクチに会って話をしなくては!千葉ロッテマリーンズに戻ってきてくれと伝えなければ。
できればサインもほしいです。
そこで、試合終了後に出待ちを敢行することにしました。
ゲートのそばにいた球場職員に「パスクチのサインがほしいんですがどこで待てばいいですか?」と聞きました。
案内された球場裏の駐車場で、パスクチが出てくるのを待ちます。私のほかにもベースボールカードのファイルを持ったアメリカ人野球マニアが数人いて、選手たちを待っていました。

待つこと20分。私服姿のパスクチがやってきました。ロッテユニの私に気づいたようです。私が意を決して話しかけると、6年前と変わらない笑顔で応対してくれました。
「パスクチ選手!会えてうれしいです。日本からパスクチ選手を応援しにやってきました」
「日本から来たの?ロッテファン?ロッテ、ヨロシク!」
パスクチは日本語が少しわかるようです。
「多くの千葉ロッテマリーンズファンがパスクチ選手のマリーンズ復帰を望んでいます。私もそうです」
と英語で伝えると、力強い日本語で、
「オナジ!」
と返事してくれました。
パスクチは、マリーンズに戻りたがっている!
自分はその言葉を聞くために、海を渡ってここまで来たんです。
自分の念願がかないました。嬉しい!心の中に充実感と高揚感があふれます。
他にも色々言いたいことや、聞きたいことがあったのです。ただ苦労してここまでたどり着いて、いざ本人を目の前にすると舞い上がってしまい、言葉が出てきませんでした。

でもサインはもらいました。
「俺のユニフォームにもサインしてあげるよ」
と、パスクチユニにもサインしてもらったばかりか、
「折角だから記念撮影しよう」
と、周りにいたアメリカ人の野球マニアに写真を撮るよう指示し、一緒に記念撮影してくれたのです。
なんていい男なんだパスクチは!
ファンサービスの塊じゃありませんか。
ここ数年のマリーンズはファンサービスが低下していますから、テコ入れのためにもパスクチが必要ですね。
で、調子に乗った私はマリーンズファンへのメッセージを動画撮影させてほしいと頼み、「英語でいい?」と快諾してもらって、こちらのビデオメッセージの撮影に成功したのでした。
パスクチと固い握手をして別れると、地元の野球ファンに声をかけられました。
「日本から来たのか?」
「ありがとう。俺は千葉ロッテマリーンズのファンで、パスクチの大ファンなんだ」
「ワオ!すごいな!」
すべてがうまくいきました。
しかし、至福の瞬間が終わって冷静になると、自分が置かれた危険な状況を思い出してしまいました。
私は今、全米屈指の治安の悪さを誇るバッファローのダウンタウンに、たった一人でいるのです。
しかも時刻は23時。深夜のダウンタウンは本当に誰も歩いていません。
どうやってホテルに帰ればいいのでしょうか。
グーグルマップで調べた限りでは、球場近くのトラム乗り場からトラムに5駅乗って、そこから歩けばいいことになっています。
ただ、それはダウンタウンの実情を無視した机上の空論です。
球場から見えているトラム乗り場には誰もいません。反対方向に行くトラムも見ましたが、誰も乗っていません。
あんな誰もいないところでトラムを待っていたらどうなるでしょうか。
怖い・・・。とてもトラムには乗れません。それに治安情報にも「夜一人でトラムに乗るな」と書いてあります。
ならば歩いて?
それも無理です。
誰もいないのに、誰かに見られているようなこの感覚。不気味に静まり返る道の物陰には、凶悪な犯罪者が隠れているかもしれません。
静まり返った廃墟の向こうには麻薬の売人が取引しているかもしれません。
「バッファローのダウンタウンは強盗、ひったくり、強姦、時には殺人事件などが珍しくない地区です」
ネットのどこかで見た一文が頭をよぎりました。
犯罪に巻き込まれても助けてくれる人はいないのです。
そんな場所を深夜に一人で歩いたら冗談抜きで殺されてしまうかもしれません。
これはまずい。死ぬほどまずい。
ホテルまでの足を確保しないで来たのは無謀でした。
ホテルのフロントか球場の人に頼んでタクシーの電話番号を教えてもらうべきだったのです。
私は本気で生命の危機を感じました。

とにかくタクシーです。タクシーを捕まえるしかありません。
幸い球場のすぐそばにグレイハウンドなどの長距離バスのバスターミナルがあり、24時間体制でバスが発着するといいます。
ここならばバスでバッファローにやってきた客目当てのタクシーがいるでしょう。
私は周囲に人がいないことを確認し、全速力でバッファローのバスターミナルに駆け込みました。
バスターミナルの広い駐車場にはパトカーが止まっており、バスターミナルには灯りがついています。
バスターミナルの前にはタクシーも止まっていました。よかった。これならホテルにたどり着けそうです。
しかし、私が意を決してタクシードライバーに話しかけると、なんと乗車拒否されてしまいました。
「ダウンタウンのハンプトンイン?近いから嫌だね。そのホテルは無料送迎しているはずだから、ホテルに電話してみなよ」
「いやいや、乗せてくださいよ」
「だからホテルに電話しなって」
そんな殺生な。たしかに徒歩20分と近いですけど。
仕方ありません。電話をするため私はバスターミナルの中に入りました。
バスターミナル内は深夜にもかかわらず長距離バスを待つ客が数十人いてにぎやかです。
警官が常駐しているようで、治安はそこそこ保たれているようでした。
私は携帯電話を取り出し、ホテルに電話をかけてみました。
「今日泊まる者です。今バスターミナルにいるのですが、迎えに来てもらえないでしょうか」
「申し訳ありませんが、無料送迎は空港だけなんです。バスターミナルからはタクシーで来てください」
トホホ。ホテルの送迎は断られてしまいました。こうなったらなんとか交渉してタクシーに乗るしかありません。
建物の外に出ると先ほど乗車拒否したドライバーが暇そうにしています。
日本ハムファイターズで5番を打ってそうな、ガタイのいい黒人の兄さんです。
「ホテルに電話してみたけど、送迎は空港だけだって言われました。お願いですから乗せてください」
「えー、でも近いんだよなー」
「いくら出せば行ってくれますか?」
「うーん」
「ハウマッチ!」
「20ドルだ!」
「オーケー!その金額でいいです。乗せてってください」
交渉成立です。少々高いですが、乗せてくれなければ命が危ないのです。この際やむを得ません。
まあ1600円ですから、深夜料金と思えばいいでしょう。
タクシーに乗り込むとメーターがありません。無線がひっきりなしになっていますからモグリのタクシーではないのでしょうが、不思議です。
いかつい黒人ドライバーは言い値が通ったからか、先程とはガラリと変わって上機嫌になりました。
「バッファローにはなぜ来たんだ?大学の試験か?」
「いや、野球観戦です。バッファロー・バイソンズの試合を見に来たんです」
「野球か、そりゃいいな」
どうやら学生と間違えられたようです。お金を持ってないと思われたかもしれませんね。
「野球好きなのか?」
「大好きです」
「ニューヨークメッツは知ってるか?」
「もちろん。以前ボビー・バレンタインが監督をしてましたね」
「じゃあニューヨークヤンキースは?」
「ヒデキ・マツイがいましたね」
「じゃあシカゴ・ホワイトソックスは?」
「タダヒト・イグチがいましたね」
そんな話をするうちにホテルが見えてきました。ホテルまでは5分ちょっと、タクシーなら一瞬です。
私はドライバーにチップ込みで22ドル渡してタクシーを降りました。
ああ・・・、怖かった・・・。
死ぬかと思いましたが、なんとか無事にホテルにたどり着けた・・・。
いやもう本当に危ないところでしたよ。心底ほっとしましたね。何も無かったのが奇跡です。
明日の朝は球場の近くのアムトラックの駅に行かなければなりませんが、問答無用でタクシーでしょう。
私はフロントで明日タクシーを呼んでもらえないか頼んだところ、快く引き受けてもらいました。
「明日は何時に出ますか?7時?場所はバッファロー・エクスチェンジステーションですね。わかりました。手配しておきます」
これで明日の朝は安心です。私はフロントに礼を言って部屋に戻り。ベッドの横に鎮座しているジェットバスを堪能してから眠りにつきました。
今日はいろいろなことがありました。
明日は1日かけてニューヨークに戻り、夜はマンハッタンの夜景観賞です。
7月16日の試合結果
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その日本も物騒な事件がありますが・・。
例えば球団合併だとか、1億円恐喝だとか。