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我らがマリーンズはシーズン前の下馬評を覆し、粘りの野球で何とかAクラスに食らいついています。
しかし、他球団に比べて投手陣の人数不足は明らかです。今後はかなり厳しいといわざるを得ません。
なぜこんなことになったのか?それは、マリーンズの外国人、特に外国人投手がまるで働いていないからです。
一体マリーンズの編成は何をやっているのでしょう。他のチームはダックワースやらディクソンやら外国人投手が活躍しているというのに。
ああロッテときたら!
ホワイトセルは出場しているものの手首を痛めており、グライシンガーは2軍、ゴンザレスは本拠地マリンが苦手で2軍行き、ロサとレデズマは2軍の肥やし。
もうちょっと戦力になりそうな外国人選手を獲得すべきなのですが、今のところ球団に動く気配は無さそうです。どうやら外国人補強にお金を使いたくないようですね。

しかし、お金を使わなくても可能性のある外国人選手を獲得することは可能です。
別にアメリカや中南米、韓国台湾にこだわる必要はありません。メジャーリーガーに大金を積んで失敗するよりも、新たなフロンティアに開拓すればよいのです。

新たなフロンティア。それはヨーロッパです。
2013年のWBCは日本にとって残念な結果に終わってしまいましたが、その一方で目立ったのはヨーロッパ勢の躍進でした。
第2ラウンドで日本と対戦したオランダ代表や、第1ラウンドでカナダやメキシコに勝利したイタリア代表の快進撃は、それまでアジアとアメリカ大陸に偏っていた野球界の勢力図の変化をはっきりと表しています。
特にイタリア野球は昨年G.G.佐藤がボローニャに在籍したことと、イタリア出身のマエストリ投手が昨年オリックスに入団して4勝を挙げたことから、日本にとってもずいぶん身近な存在になりました。

そしてヨーロッパから本選出場を果たした国がもう一つあります。今回が初めての予選突破となるスペインです。
予選ではヨーロッパの強豪フランスを破り、決勝ではユダヤ系アメリカ人ばかりがスタメンに並ぶイスラエルを下して堂々の本戦出場。
その後第1ラウンドではドミニカ、プエルトリコ、ベネズエラと強豪ひしめくC組に入ってしまい、1勝もできずに敗退しました。
ただしプエルトリコやドミニカとは3点差の好ゲームを展開し、今後の躍進を予感させました。

ここで、スペインの野球について簡単に説明しましょう。
スペイン国内にはリーガ・エスパニョーラ・デ・ベイスボル(Liga española de béisbol)という国内リーグがあり、そのトップリーグに相当するのがディビジョン・デ・オノール(División de Honor)です。
ディビジョン・デ・オノールには現在9球団が所属しています。チーム名は以下の通りです。

CD Pamplona (パンプローナ)
CBS Sant Boi (サント ボイ)
Béisbol Navarra (ナヴァーラ)
Astros Valencia (バレンシア)
Tenerife Marlins Puerto Cruz (テネリフェ)
Béisbol Barcelona (バルセロナ)
Viladecans (ビラデカンス)
El Llano BC (ヒホン)
San Inazio Bilbao (ビルバオ)

バルセロナとその近郊にバルセロナ、サントボイ、ビラデカンスの3球団、南部のバレンシアに1球団、スペイン北部のバスク・ガリシア地方にパンプローナ、ナヴァーラ、ヒホン、ビルバオの4球団、カナリア諸島のテネリフェに1球団と地域的には少々偏りがあります。
ちなみにバルセロナはかつてサッカーで有名なFCバルセロナが経営していましたが、財政悪化により撤退したため、現在は独立したクラブチームとなっています。

トップリーグのディビジョン・デ・オノールでは週末を中心に36試合が行われます。上位2チームは国際大会であるヨーロッパカップに出場することができます。
ただ、選手の扱いはプロとアマチュアの中間です。一応選手に給料は出るのですが、野球だけで生活することは困難であり、ほとんどの選手は平日に別の仕事をして、週末に野球をしているようです。


さて、ここからが本題です。
3月の下旬にスペインに行ってきました。
マドリッドやグラナダなど様々な都市を観光し、最後に訪れたのがバルセロナです。
バルセロナと言えばガウディとサッカーのFCバルセロナ。サグラダ・ファミリアなどガウディがデザインした数多くの建築物が世界遺産に指定されています。
ですが私は正直それほどガウディに興味がありません。残念なことにFCバルセロナなどのサッカーの試合もありません。ただバルセロナでガウディ抜きの観光をするのはなかなか難しいのも事実。帰国するまでの1日半の滞在で何をするか悩んでいました。
「そういえばスペインにも野球の国内リーグがあったような気がする」
ふと思い立って検索を始めたのが出発の前日でした。
するとどうでしょう。幸運なことに私がバルセロナに滞在する3月24日に、バルセロナ近郊のビラデカンスという町で野球の試合が行われることがわかったのです。
サン・イナジオ・ビルバオ(San Inazio Bilbao)というスペイン北部バスク地方のチームのホームページを見たところ、3月24日の16時からビラデカンス(Viladecans)というチームと試合を行うとはっきり書いてありました。これはもう行くしかありません。自称海外スカウトである私の出番です。

さらにネットで調べた結果、ビラデカンスという町はバルセロナの中心駅「バルセロナ・サンツ駅」から通勤電車に15分乗ったところにあり、ビラデカンス駅で降りて約2キロ北に歩けば野球場にたどり着けることがわかりました。


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ただ空港にも近い好立地ながら本数は少なく、30分に1本しかありません。
まあそれだけわかれば十分です。私はGoogleMapを印刷して野球場の位置を確かめ、野球観戦の準備を整えました。

どんな野球場で、どんな試合が行われるのでしょうか。
スペイン野球のレベルはどのようなものなのでしょうか。
そして日本でも通用するような有望選手、第2のマエストリは発掘できるのでしょうか。

ということで、昨年のイタリア野球観戦記に続くヨーロッパ野球特集の第2弾。スペイン野球観戦記をどうぞご覧ください。

前編と後編があります。後編はこちらです。


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2013年3月23日土曜日、午後2時40分。バルセロナ観光を昼過ぎに切り上げ、バルセロナサンツ駅から近郊列車に乗りました。
今日16時から野球の試合が行われるビラデカンスに向かうためです。
バルセロナ・サンツ駅はバルセロナの玄関口。スペイン各地からの長距離列車や、バルセロナの郊外に向かう近郊列車が発着しています。
レストランなどもあるとても大きな駅なのですが、構内にはスリやヒッタクリがうようよしているともっぱらの評判です。確かにいましたね。妙に鋭い目つきで行きかう人々を見つめる怪しい男が。

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バルセロナ・サンツ駅を出発した近郊列車はしばらく地下を走り、バルセロナの郊外へと向かいます。

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バルセロナ・サンツ駅から15分ほどで目的地のビラデカンス駅に到着しました。
駅からは高速道路や公園やマンションが見え、日本にもありそうなニュータウンの駅です。

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ビラデカンスの駅です。小さな駅舎です。切符を売る自動券売機は設置されておらず、改札脇の窓口にいる駅員に声をかけて切符を買い、自動改札機を通るシステムになっています。タクシーはいませんでしたので、球場まで歩いて行く事にしました。

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駅前の道路を渡り、広い公園と大きなマンションに挟まれた遊歩道を歩きます。
マンションの1階はショッピングセンターになっており、H&Mも入っているようでした。
ただ広い遊歩道は歩く人があまりおらず、なんだか開発に失敗したニュータウンを歩いているかのようです。

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住宅地を歩きます。時刻は15時過ぎ。そういえば今はシエスタの時間でした。
スペインは昼食の時間が日本よりも遅く、大体14時から16時ごろとされています。この昼食とその後の休憩の時間をシエスタといいます。
この時間帯は商店が休みになるほか、人通りが少なくなるため治安の悪い街は要注意だそうなのです。ビラデカンスの治安はどうなのでしょうか。見たところ子供が一人で歩いていますし、通りには車が行きかっていますから大丈夫そうですが。

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「ゼン」という名の薬局がありました。ローマ字で「SHIATSU」と書いてあるのですが、営業時間内にいくと店の人が揉んでくれるのでしょうか。

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住宅地を歩いて30分。野球場が見えてきました。サッカーの国スペインにも立派な野球場があるんですね。野球好きとしては感動する光景です。

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野球場の隣にはソフトボールの球場があり、女の子たちが準備運動をしていました。

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野球場の正面玄関です。チケット売り場は無く、どうやら無料で観戦できるようです。

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バックネット裏の客席に上がってみました。
ホームチームのビラデカンスが試合前のノックをしています。時刻は15:30。あと30分で試合開始です。

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サードの選手が何度もエラーしています。ショートやセカンドの選手は結構上手です。
選手によってレベルに差があるのでしょうか。

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監督がノックをしています。

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ショートの選手。どうも白人よりも中南米系の顔つきをした選手が多いようです。

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こちらは対戦相手のサン・イナジオ・ビルバオ。スペイン北部のバスク地方にある都市のチームです。

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試合開始まであと20分ですが、客は1人しかいません。選手となにやらしゃべっていましたから関係者でしょう。
やはりスペインはサッカーの国。野球を見る物好きはいないのでしょうか。

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センターのフェンスにあるチームのマーク。ビラデカンスは1945年に設立された歴史あるチームなのです。

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おや、なにやらインタビューをしていますね。あの赤いジャンパーのおっさんは誰なのでしょう。
帰国後調べたところ、インタビューしているのは地元のインターネットテレビ局で、赤いおっさんは球団のトップらしいです。

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グラウンドではビジターチームであるサン・イナジオ・ビルバオのノックが始まっています。

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セカンドの選手。しっかりとした動きです。

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1塁側。ただ一人の観客がノックを見ています。

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ブルペンでは今日の先発投手が投球練習をしています。結構速い球を投げますよ。140キロは出ているでしょう。

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まもなく試合開始ですが、トイレに行きたくなりました。しかし客席のトイレはすべて鍵がかかっており入れません。
球場内ならトイレがありそうなので、正面玄関から中に入ってみました。
玄関を入ると休憩できるスペースがあり、ジュースの自動販売機などが置かれています。そしてホワイトボードには今週末のスケジュールが書かれていました。ビラデカンスの野球チームはサッカークラブと同じく傘下に年代別の野球チームを抱えており、大人のチームだけでなく少年野球のチームや、ソフトボールのチームもあるようです。

私がホワイトボードの写真を撮っていると、球場係員と思しき女性からスペイン語で声をかけられました。
「フォト?」と言っているので、「写真を撮りたいのか?」と聞いているのでしょう。
私が「シー(はい)」と答えると、その女性は「ついて来い」とばかりに手招きをしました。

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女性係員に案内されるまま球場内の通路を歩いていたら、なんとそのままベンチ内へ。私が入るのを躊躇していると「入って入って」というゼスチャーをしてきます。
なんと試合中選手に混じってベンチから写真を撮っていいというのです。これには驚きました。

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突然の乱入者であるにもかかわらず、ビラデカンスの選手たちは笑顔で私を迎えてくれました。
「日本から来たんだろ?日本のどこ?」
「トーキョからかい?」
「俺広島に行ったことあるんだ」
選手たちに英語で話しかけられ、握手を交わしました。
やがて審判もやってきて、「キョウハヨロシク」と日本語で挨拶されました。
まさかスペインの野球場で日本語で話しかけられるとは・・・。

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ビラデカンスのメンバー表です。スタメン表はどこに?

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ベンチの隅に置かれた用具類。白いバケツにボロボロの硬球が入っています。

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いよいよ試合開始。選手たちがベンチ前に集まりました。私はベンチ内からそれを見守ります。

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両チームの監督がメンバー票を確認し、いよいよ試合開始。
本日のオーダーは以下の通りです。球場内にはビジターチームのオーダーが書いていなかったので、帰国後に調べました。

■ SAN INAZIO

1 ALVAREZ T R ss
2 LLAMES R M lf
3 FELIZ K cf
4 MORALES J R c
5 MORILLO D A 3b
6 MORBAN J rf
7 SAN ANDRES J 1b
8 MENDIZABAL M dh
9 RUBIO A 2b
P LOPEZ J J p


■ VILADECANS

1 MONZON J ss
2 GONZALEZ C A dh
3 NINO D c
4 CATALAN M 1b
5 CANO jr F rf
6 GRULLON A 3b
7 CABO V lf
8 CUESTA S 2b
9 TENLLADO A cf/lf
P MONTAÑO E J p


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サン・イナジオの1番バッターが出てきました。随分小さいバッターです。

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ビラデカンスの先発投手。モンテーニョといい、195センチの長身左腕です。

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さあ試合開始。

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1番バッターのモンゾンはサードゴロ。アウトにはなりましたがなかなか足が速いです。
その後2番バッターが倒れ、2アウトランナーなし。
せっかく特等席にいるのです。持参したコンデジで動画を撮ってみましょう。




3番バッターがセンター前ヒット。2アウトからランナーが出て、ボークで2塁に進みます。
そして4番打者が登場。どう見てもベニーと里崎を足して2で割ったような風貌です。

あ、あれは・・・
ベニ崎!ベニ崎じゃないか!

思わず叫びそうになりました。
そのベニ崎、センターへタイムリーツーベースを放ち、サン・イナジオが1点を先制しました。
なかなか勝負強いバッターじゃありませんか。猛鴎魂を感じますよ。ロッテで育成契約や!

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2塁ベース上のベニ崎。やはりベニーです。本名はホセ・モラレスといって、サン・イナジオのキャッチャーです。
4番でキャッチャー。しかも勝負強い。マリーンズは里崎をケガで欠いていますから、獲得もアリですよ。

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ベンチで写真を撮っていると、選手から声をかけられました。
「俺達の写真も撮ってくれよ」
そんなわけで1枚パチリ。にこやかな笑顔がまぶしいです。

あれ?
私は違和感を感じました。
これまで選手たちや審判からはすべて英語で話しかけられています。
しかし、スペインでは大きなホテルや主要駅を除き、英語がほとんど通じません。みんなスペイン語です。
サンタンデールという街で入ったレストランでも英語が全く通じず、指差し会話帳を駆使してなんとかやり取りしたものです。
ところが、街中で通じないはずの英語が球場内で通じています。もちろん選手同士の会話はスペイン語ですが、彼らは英語も話せるのです。
不思議に思い、帰国後に調べてみました。最近はアメリカのマイナーリーグやメキシカンリーグをはじめ、中南米諸国の国内リーグでプレーした中南米の選手が活躍の場を求めてスペインに移住するケースが増えており、こうした中南米からの移民によってリーグのレベルがかなり上がっているとのことです。言葉が同じなので移住への障害が少ないのでしょう。道理で中南米系の選手が多いはずです。メジャーやマイナー経験があれば英語が話せるのもうなづけますね。

ビラデカンスの先発モンテーニョもベネズエラ出身。2007年と2008年にはベネズエラのサマーリーグでメッツ傘下のチームに所属していました。なるほど、メジャーリーグを目指していただけあって、かなりの剛速球を投げます。

モンテーニョの成績

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ベニ崎の次のバッターはショートゴロ。ショートはすばやいフィールディングでした。

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1回表が終わりました。1点を失ったものの、ピッチャーらがハイタッチで迎えられます。
客席を見上げれば観客がチラホラ。公式発表によると観衆35人だそうです。

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サン・イナジオの先発はロペス。
マイナー経験はないようですが、かつてはナバーラというチームでエースを務めていたようです。
腰高なフォームから威力のあるボールを投げていました。

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1回裏。ビラデカンスの攻撃。

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2塁ランナーが外野フライからのタッチアップで3塁へ。ヘッドスライディングが決まりました。
ベンチでは笑いあっていても、グラウンドでのプレーは真剣です。

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ランナーに指示を出す監督。1回裏は無得点に終わりました。
序盤は投手戦となり、1−0のまま進んでいきます。

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わざわざスペインまで来て野球をやろうという連中です。
そんな根っからの野球好きですからベンチにグラブを放るような真似はしません。
守備からベンチに戻った選手たちは、ベンチの柵にそっとグラブを置き、自分の帽子を載せていました。
ローリングスの、使い込まれたグラブです。

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ボールボーイを務める少年。バッターボックスのバットを回収して、振り回しながらベンチに戻ります。

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一方隣のグラウンドではソフトボールの試合が始まっていました。
女の子がほとんどですが、男の子も混じっています。

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かなり速いボールを投げます。

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ネット裏から見守る観客。選手たちの親兄弟でしょう。

ところで、記事内で球団トップがインタビューされている写真がありますけども、帰国後に実際の動画を見つけてしまいました。
ビラデカンスの地元インターネットテレビ局が撮影したもののようです。かなり重い動画ですが。

動画のURLはこちらです


後編に続きます。